251025 指示待ちと見られがちな社員をどのように育成していくか
言われたことしかできないという指示待ちと見られがちな社員をどのように育成していくか。どのようにすれば主体性や意欲を引き出して、共に成長していけるものか、その核心に迫ります。全体を通じて言える大事なことは、信頼関係を築き、本人のモチベーションを高め、そしてスキルを高めていく、この3つの要素です。そして、それらをつないでいく対話の重要性がなければなりません。何よりも、その根底にあるのがリスペクトです。つまり、一人一人、しっかりと尊重する姿勢、これが全ての土台ということになります。
では、なぜ指示待ちという状態が生まれてしまうのか。その背景をみていくと、静かな退職なんていう言葉もありますが、貢献意欲や成長意欲が低いということがあります。これは単純にスキルがないこと、やる気がないことの表面的な話だけではありません。例えば、学習性無力感という言葉があります。これは過去に自分のやったことが結果に結びつかなかった、そういう経験からどうせやっても無駄だったと諦めてしまう心理状態です。これが根にあると、なかなか自発性が生まれてきません。どうせ無駄だと思ってしまうから,指示されたこと以外はやろうと思えなくなってしまいます。それに加えてやはり信頼関係の欠如も大きいことがあります。上司や職場に対して安心感を持てないと、積極的に意見を言ったり何か新しいことに挑戦したりというのは難しいものがあります。
さらにモチベーションの問題があります。その仕事そのものに意味を見出せないことや、個人的な目標と結びついていないと感じてしまう場合、そしてスキルの不安、これも無視してはいけません。自信が持てないと成功体験が足りないことが行動をためらわせてしまいます。
信頼、意欲、自信、これらがとても大切になります。また、不公平な評価に対する不満や、あるいは組織の中での所属意識の希薄化、頑張っても報われないと感じてしまう,そしてここに自分の居場所がないなと感じてしまう。そうするとエネルギーがどうしても内向きになります。こういった要因が複合的に作用して指示待ちという状態を作り出してしまいます。
一筋縄ではいくものではありませんが、これらの複雑な状況を解きほぐすキーがあります。それが本書で繰り返し強調していくのが対話になります。対話は具体的にはどんな役割を果たすか、ただ話せばいいというものではありません。単なるおしゃべりや業務連絡、いわゆる報連相とは少し質が異なります。
対話の効果は大きく分けて4つほどあります。まず信頼関係の構築です。相手に寄り添って同じ目線で話を聞いて理解しようと努めます。その姿勢が安心感と信頼を生むことになります。これがすべての出発点であります。
次に要求の引き出し。これは一方的に指示するのではなく、問いかけを通じて相手の内面にある,考えや意欲そして意志を引き出す働きです。相手が「はい」や「いいえ」で終えてしまうような問いかけはクローズドクエッションと呼びます。これではなく相手に対してあなたはどう思う、どう考える、このような問いかけをしながら、どんなことを実現したいのか、相手の考えを引き出します。これをオープンクエスチョンと呼びます。これが相手の思考を深めて主体性を促すことになります。相手の中から答えを引き出すような問いかけが大事になります。
そして3つ目が,支援の提供です。対話を通じて相手が何に困っていてどんなサポートを必要としているのかこれを具体的に把握して、解決、支援や成長支援につなげていく。困っていることや課題を共有しやすい関係があってこそ適切な支援も可能になります。
そして最後に価値観の共有、仕事の意味や組織の目標を伝えて共感を促すことで、本人へのエンゲージメントを高めていく。このように、信頼関係を築いて、本音を引き出して、必要なサポートを提供して、仕事の意味を共有する。対話には、そのような多面的な力があります。
繰り返しになりますが、重要なことは、相手に共感して、相手の気持ちに寄り添うことです。それと、質問ではなく、発問により、相手の考えを引き出してあげること。これが、指示待ちからの脱却を促す質の高い対話となります。
共感と発問を意識した対話で、まずは信頼関係を築くこと、これが第一歩であります。その土台の上で、次はどうやって本人のモチベーション、つまり意志に火をつけるか、考えていきます。モチベーションの戦略も、いくつかあります。まずは中心になるのが目標設定の支援です。初めから高い意志を掲げて、やりたいことを求めるアプローチではありません。まずはやるべきことから目標を見つけてあげる。そしてできることを見つけてあげる。そして意志、やりたいことへと段階的にアプローチをしていきます。must can willへの段階的にアプローチしていきます。特にやりたいことが見つからない社員に対して有効であります。
まずは目の前のやるべきこと、マストを確実にこなして成功体験を積む中で、できること、CANを増やしていく。そのプロセスで自信がついて、結果的にやりたいことWillが見えてくるというものです。やりたいことが見えないから動けないではなく、まずできることを増やすことから始めると、これが実践的なアプローチになります。
本人の実現したい目標づくりを直接支援するというのはとても重要です。それには、現在を理解し、組織の目標と役割を理解して、個人で実現したいことを見つけて、キャリアビジョンを形成してあげる。そして、短期目標と長期目標を一緒に考えてあげる。対話を通じて、本人の価値観や目指す方向性を考えていきます。これらが目標設定において大事なことになります。
目標設定と並んで重要な戦略については、承認とロールモデルの存在も大きいです。日々の業務の中で頑張りやプロセス、どんな小さな成果でもいいので、具体的に発見して言葉で伝えてあげること。あなたのあの粘り強いデータ分析のおかげで、すごく助かったよみたいに、具体的なフィードバックが抽象的な褒め言葉よりもずっと響くことになります。具体的な行動を承認してあげるということです。
そして、身近な先輩や本人がこうなりたいと思えるような魅力的なロールモデルを示すことも、成長への意欲や将来への希望につながります。
さらに忘れてはいけないのが公平な評価制度です。結果だけではなく、努力やプロセスもしっかりと評価される。そういう透明性の高い仕組みが頑張りを支えます。最後に意味づけと所属意識です。自分の仕事がどう組織に貢献しているのかを伝えて、当事者意識を育むこと、それからここにいても,大丈夫だと感じられる心理的な安全性、気軽に会話が生まれる雰囲気づくり。時には、経営者自身の言葉でビジョンや思いを語ることの重要性も必要になります。モチベーションを引き出すためには、目標設定、承認、公平な評価、意味づけ、多角的なアプローチが必要になります。
意欲が高まっても、自分にはスキルがないから無理だと感じてしまうと、なかなか行動につながりません。そのスキル面の不安に対して、どのようにアプローチすれば良いか考えます。スキルの開発についても、やはり段階的なアプローチが有効であります。いきなり高度なスキルを求めるのではなく,ステップを踏むことが重要となります。まず1つ,できることをやりきる。今あるスキルを最大限活用することから始めます。次に,できることの幅を広げる。既存のスキルを応用して,少しずつ対応できる範囲を広げていきます。そして,できないスキルを訓練する。ここで初めて,新しいスキルの習得に挑戦するという流れになります。本人次第で、少しずつステップアップしていきます。その新しくできた習得したスキルを他の人に教えるということが大事になります。自分ができることをまず教えるようになること、そして新たに身につけたスキルも教えるようになるということもやるきにつながります。
自分の知識や経験が積極的に伝えていくことは重要性です。ここでも対話が必要になります。単にスキルを教えるのではなく、相手の勇気づけに関わり方が大切であります。なぜそのスキルが必要なのか身につけることで、どんな貢献ができるのか、感情や事実に属したストーリーで伝える。日々の努力への感謝や未来への期待。これを具体的に伝えることが、スキル習得への意欲を後押しすることになります。
ここまで、信頼関係、対話、目標設定、モチベーション向上、スキル支援、そのような要素を説明してきました。これらを統合して、実際に指示待ちからの行動変容を促すには、どのような手順で進めるのが効果的なのでしょうか。
これは、ビフォア、行動、イノベーションの4つのステップという具体的なフレームワークがあります。これは、行動につなげるための実践的な対話のフレームワークと言えます。まず、ステップ1で現状を客観視する。上司の思い込みだけでなく、しっかりと事実に基づいて、本人の強みや弱み、課題を冷静に把握します。ここでの対話が、後のステップの土台になります。
次にステップ2、会社の目標と部下の役割を確認して、組織全体の方向性の中で、本人がどんな役割を期待されているのかを改めて共有して認識を,すり合わせていきます。ここで仕事の意味づけにつながっていきます。組織と個人のベクトルを合わせるということです。
そしてステップ3、個人の目標や夢を確認する。これがまさにWillの引き出しにあたります。本人が仕事を通じてあるいはその先に何を望んでいるのか、どんなことを実現したいのか、これをじっくり対話を通じて共有します。
最後にステップ、4行動計画を策定する。これまでのステップを踏まえて、本人がこれならできそうだなとやってみたいと思えるような具体的なアクションプランを一方的に決めるのではなく、一緒に作っていく。最初は小さな成功体験を積めるようなスモールステップが良いです。一緒に計画を作る、そこがポイントになります。この4つのステップ全体を通じて根底に流れているのは、リスペクトする姿勢になります。一人一人の個性や価値観を尊重して可能性を信じて関わっていくことが、行動変容を促す上で最も重要なことになります。
指示待ちからの脱却は、特効薬があるわけではなく、本当に緻密なプロセスが必要になります。まず、リスペクトするという姿勢を土台にして、共感と発問を意識した対話で信頼関係を築く。その上で、本人の状況に合わせて、マスト、キャン、ウィルのステップも視野に入れながら目標を引き出して、具体的な承認や意味づけでモチベーションを高めて、同時に段階的なスキル支援で不安を取り除いて、本人が納得できる行動計画につなげていく。一つ一つのプロセスが有機的につながっていくことになります。このような関わり方については、特定の社員だけではなく、職場全体の活性化、一人一人が尊重されて自分の役割と成長を感じられる職場というのは、従業員のエンゲージメントを高めて、結果的に組織全体の持続的な成長をもたらします。