251022 センスメイキング理論
センスメイキング理論について説明していきます。私たちが日々直面する少し捉えどころのないカオスの状況のような場面において自分が,なるほど、そういうことかと納得して進むべき道を見つけていきます。このセンスメイキングという考え方が変化の激しい今の時代に組織を動かすリーダーシップや私たち自身の意思決定に影響をしています。
私たちが普段世界をどのように認識しているか。私たちは情報をただ客観的に分析して理解をしていると
思いがちですが、実はそうではありません。むしろ目の前の出来事や情報に対して能動的にどういう意味だろうと問いかけながら自分なりにあるいは他の人との関係の中で意味を作り出している。このような主体的な意味づけのプロセス、それこそがセンスメイキングという考え方です。
この理論は、組織論学者カール・ワイクにより生み出されました。特に、組織という活動の中で、意味づけがいかに重要かということを強調しています。組織の行動や決定は、合理的な計算だけではなく、そこで働いている人たちが、その状況をどう解釈して納得できる物語を紡ぎ出せるかどうかに大きく関わっています。
単純に情報を処理するだけではなく、意味を生成していくということにもなります。その意味づけについて、具体的にはどのように行われているのか、このプロセスを説明していきます。
一つ目、レトロスペクティブ、つまり後付けで意味が作られるということです。大抵は理解をしてから行動すると思われがちですが、この直感に反することが起こっています。私たちは行動した後やあるいは出来事が一段落してからあれは一体何だったんだろうと振り返って過去の経験や断片的な情報これをつなぎ合わせて、初めて意味を理解するということが多いです。行動が先にあって意味は後からついていきます。未来を予測するときも過去を解釈することで現在をナビゲートしているということです。そういう側面が強いです。
アイデンティティとも深く関わってきます。自分は何者なのかこの組織は何を目指しているのかそのような自己認識が、どの情報にも注目してそれを意味付けることに影響を与えていきます。自分がどういう存在かによって見える世界やその解釈自体が変わってきてきます。
私たちが意味を作る上で手がかりに頼るという点がとても重要です。すべての情報を網羅的に分析するのではなく、目についたいくつかの断片的な情報を,手がかりとして、それを拾い上げて、そこから全体像を推測して、ストーリーを組み立てていきます。
例えば、ダイビングの例で話をします。初めてのダイビングで、最初は未知の海なんか怖いみたいな漠然とした認識があったとしても、インストラクターの丁寧な説明や、これが一つの手がかりとして、あるいは周りの経験者の人がすごくリラックスして楽しんでいる様子、これも手がかりになります。そういうのに触れることで、安全管理もしっかりしているし、実はこれはすごい!楽しい体験なんだ!と新しい意味づけが生まれてきます。これは限られた手がかりから状況に対する理解を作り上げていくというプロセスになります。
そして、その意味づけというのは、一人で完結するものではないということもあります。社会的ソーシャルです。私たちは、他の人との対話や周りの人、人の反応、あるいは共有される物語、そのようなものを通じて意味を確認したり、修正したり、あるいは時には全く新しい意味を作り上げたりすることもあります。個人の頭の中だけで生まれるのではなく、相互作用の中で形作られていくものになります。
そして、それらは継続的にプロセスの中で状況は常に変わっていき、新しい手がかりも出てきます。意味づけにおいても更新され続けていきます。そして、私たちは、環境にただ反応しているだけではなく、自らの行動によって環境そのものを形作りをしていきます。
例えば、あるチームがこのプロジェクトは、失敗するだろうという雰囲気に支配されているとします。その意味づけに基づいて行動する。そうすると、例えば努力を怠るとか、協力しないとか、そういうことをすれば、結果的に本当にプロジェクトは失敗してしまいます。逆に、これは挑戦だけどやり遂げられるはずだという意味づけをして行動すれば、成功の可能性が高まり、環境そのものが変わっていくかもしれません。
言動が意味を作って、意味が行動を導いて、それがまた環境を変えると、そのような循環があります。ある意味、自己成就予言みたいな、そういう側面もあるということです。
そして、妥当性の重視。正確さよりも大事なものがあります。私たちは、必ずしも100%客観的に正しい完璧な理解を求めているわけではないということです。むしろ手元にある手がかりから、少ない情報であっても考えていき、つじつまがあい、これなら進められそうと思っていけば、自分なりにもっともらしい納得感のあるストーリーを作り上げ、行動をしていきます。完璧な正しさよりも、腑に落ちるかどうか、納得が高まるかどうか、ということが大事です。
データや事実がとても重視される時代において、それでも納得感が得られることがとても重要になります。
もちろん、正確なことは必要ではありますが、決してすべてではありません。特に先が見えない複雑な状況においては、すべての情報を集めて完璧な分析をするということは不可能です。そういう時にこそ、人を動かすこと、完全に正しいかはわからないけれども、これでやってみようと思えるような共有された納得感のあるストーリーが必要になります。これが時として集団的な思い込みを生む危険性ももちろんはらんではいますが、同時に不確実性の中で行動を起こすための何らかの原動力にもなります。後付けでも手がかりをもとに社会的にそして納得感を重視してこれらの特徴が組み合わさって私たちの意味付けというストーリーが成り立ちます。
では、この考え方をもとに、組織を率いるリーダーにとってどんな意味を持つのか、「あのリーダーは意味の建築家だ」みたいな言葉もありますが、リーダーのとても重要な役割の一つに、変化や危機や曖昧な状況に直面した時に、組織のメンバーが今何が起こっているのだろうとか、私たちはどう進むべきなんだろうという理解をするための意味づけを提示して、方向づけすることが大切です。
単なる指揮命令系統というだけではなく、意味の方向づけが大事です。例えば、予期せぬ競合が出てきて、市場が混乱した時、リーダーが「これは脅威だ」「守りに入れ」とだけ発信したら、組織活動は萎縮してしまうかもしれません。しかし、同じ状況でも、これは我々の強みを見直して、新しい価値を創造するいい機会なんだと、具体的な根拠とかビジョンと一緒に語りかければ、メンバーの意識は変わって、混乱がエネルギーに創出の転換になり、活性化につながる可能性があります。
そのリーダーが提示する意味は絶対的に正しいものである必要はありません。妥当性重視の話につながります。もちろん、現実離れしたただの楽観論ではいけませんが、リーダーは必ずしも完璧な未来を予測できるわけではありません。重要なのは不確実な中でも集められる手がかりをもとにメンバーがなるほどそのストーリーなら信じられるとか、それだったら自分も貢献できそうだとか、納得できるような一貫性のあるもっともらしいストーリーを語れるかどうかが重要です。
ストーリーに沿った行動を自ら示せるかどうか、とても大事です。これは、リーダーシップの本質に関わる能力にもなります。センスメイキングが社会的なプロセスであるということを考えると、リーダーが一方的に意味を与えるだけでは、不十分でもあります。優れたリーダーは、トップダウンで意味を押し付けるのではなく、メンバーとの対話を通じて、多様な視点や経験、重要な手がかりになるので、それを引き出しながら、共に納得できる意味を共創して、共に作り上げていこうとします。例えば、ワークショップを開いたり、メンバー自身の言葉で経験やアイデアを語ってもらったり、こういうプロセスを通じて、新しい意味づけが組織全体に浸透しやすくなります。
共に作り上げるということは、最近注目されているサーバントリーダーシップやアダプティブリーダーシップで示すようなメンバーの主体性や学習を,重視するという考え方にも通じます。強いビジョンを掲げて組織を引っ張っていくトランスフォーメーショナルリーダーシップもそのビジョンがメンバーにとって意味のある物語として受け入れられないと力を発揮できないことになります。
リーダーが語るビジョンが、メンバーのアイデンティティや価値観と共鳴して、未来を実現したいという納得感となり、それを生み出すからこそ、人々は動かされる。だからセンスメイキングの視点というのはいろいろなリーダーシップの根底にある意味の力を浮き彫りにしていきます。リーダーシップとセンスメイキングは深く結びついていきます。
具体的に、組織変革をしたいとき、新しい方向へ進みたいという場面で、この理論を活かしていきます。変革というのは、単にルールや制度を変えるだけではなく、そこで働く人、常識的な考え、当たり前みたいな根深い意味づけを変えるプロセスにあります。特に変化への抵抗が強い場合は、その抵抗の根源にある意味づけを変えなければ、前に進めません。抵抗の背景にある意味付けを探るには、まず、現状の意味付けを丁寧に把握することから始めます。なぜ変化が必要だと感じられないのか、今のやり方にどんな意味や価値を見出しているのか、何を失うことを恐れているのか、あるいは、もっと日々の対話を通じて現状維持の根っこにあるある意味の世界をまず理解します。
次に、変革の必要性や目指す方向について、新しい意味づけを促すような手がかりを提供していき、市場の変化や顧客の声、成功事例、そういう客観的な情報を用いて、我々にとって何を意味するのか、そういう物語を,提示していきます。それを一方的に伝えるのではなく、共に価値を創る、競争するプロセスがとても重要になります。新しいビジョンや変革の意義について、メンバー自身が考えて、語り合って、自分たちの言葉で意味を作り出していく。そういう場を設けます。普段から対話を通じて変革によって実現したい未来を具体的にイメージして共有するのも効果的です。
さらに行動を促し、新しい意味づけに基づいて、まずは小さくてもいいから具体的な行動を試してみて、例えば新しいツールをちょっと使ってみるとか、新しいプロセスを試行してみるとか、その行動がもしポジティブな結果、つまり新しい手がかりを生めば、それがまた新しい意味づけを強化して、さらに次の行動へつながっていきます。語り掛け、行動への意味づけ、行動の実践の良い循環を生み出すのが狙いです。小さな成功体験を積み重ねて、それを組織全体で共有することで、変革への確信を高めていきます。
例えば、製造業のデジタル化の事例は、まさにプロセスの意味付けを表しています。現場のベテラン層が、当初はデジタル技術は現場を知らないものの押し付けみたいな感じでいた。これが現状の意味付けです。しかし、リーダーが一方的に導入を進めるのではなく、現場の声に耳を傾けて「デジタル化」というのは、長年培ってきた知恵や経験を時代に合わせてさらに生かすための「武器」という理解を持って、そういう新しい意味づけを体験を通じて共創していき、新しい価値を作り上げていきます。その結果、自分たちの仕事をより良くするための道具というふうに捉えられ、現場が主体的にデジタルツールを活用し始めます。これは,競争とその行動による意味の変化が見事に組み合わさった例であります。
働き方改革により、長時間労働イコール美徳みたいな古い意味づけに対して、効率的な働き方こそが顧客価値と従業員の幸福を最大化にするという新しい意味づけで、上書きしたことになります。
これらの事例からいえることは、センスメイキングを活用した組織変革には、共感的なリーダーシップつまり、メンバーの視点や感情を理解しようとする姿勢が,まず不可欠だということです。そして、抽象的な理念だけではなく、具体的な物語として変革の意義を語ります。さらに小さな成功を積み重ねて、それを共有して変革へのもっともらしいポテンシャルを高めて、そして何よりも一度の説明では終わらせずに継続的な対話を通じて意味を更新し続ける、そういう粘り強さが必要になります。
センスメイキング理論を通じて、私たちが無意識のうちにやっている意味づけという営みが、いかに能動的で、社会的で、そして組織やリーダーシップのあり方と密接に結びついているのか、改めて実感できます。完璧な情報や分析を求めるのも大事ではありますが、それ以上に私たちを動かしているのは何かと思える納得感や共有されたストーリーであります。
そして重要なのは、このセンスメイキングは、組織やリーダーだけの特別な話ではないということです。日々、ニュースを見たり、人と話したり、仕事を進めたりする中で、絶えず行っていることでもあります。次から次へと入ってくる情報や、目の前で起こる出来事に対して、これはどういうことなのだろうか自分にとってどんな意味があるのだろうか解釈して、自分なりの理解を形作っていきます。そのプロセスそのものがセンスメイキングとなります。私たち一人一人の日常の中にこの理論は生きています。
最近、あなたの周りでこれは一体どう捉えていいのだろうか少し戸惑ったり、なんか先が見えないなと感じてしまったり、思い出してみてください。その時、あなたはその状況をどのように理解しようとしましたか。どんな情報や誰かの言葉、あるいは過去の経験などで手がかりにしましたか。そしてその結果、たどり着いた意味づけは、客観的な正確さを目指したものであったものか。それとも自分なりに腑に落ちること、つまり納得感を重視したものであったものか。もし曖昧な状況に遭遇したときに、センスメイキングの視点で、自分は今、後から意味づけしようとしているとか、どんな手がかりに注目しているだろうか、あるいは無意識にもっともらしいストーリーを探しているのかもしれない、みたいなことを少し意識してみるだけで、状況の捉え方や次に取るべき行動が、これまでとは違って見えてくることでしょう。