251111 コーポレートウェルビーイング 従業員の幸福感と企業の成長をどのように結びつけていくのか考えていきます。コーポレートウェルビーイングという言葉について、なぜ今の時代にこれほど注目されているのか、それが会社やそこで働く社員にとってどのような意味を持つのか、説明していきます。これは単なる健康診断や福利厚生の話ではありません。もう少し本質的で、未来を見据えた戦略の話になります。 コーポレートウェルビーイングは、体の健康や心の元気だけを意味するものではありません。もっと広い概念があります。もちろん、身体的な健康や、精神的な健康(精神病にならないための予防的な健康)は、土台として非常に重要です。しかし、コーポレートウェルビーイングは、それに加えて、日々の仕事や生活における心の豊かさ、つまりポジティブな感情ややりがい、自己実現といった幸福感、これらがウェルビーイングに含まれます。 重要なのは、これが個人の問題にとどまらないということです。一人一人の従業員が健康で幸せであること、これが大事になります。それが集まって組織全体として活気があって、お互いを尊重し、心理的に安全で共通の目標に向かって前向きに進んでいける状態を指します。つまり、会社組織全体が健康で幸福度の高い状態であり、これこそが真のコーポレートウェルビーイングであると考えます。個人の総和以上のものがそこにあるという考え方に基づいています。 個人レベルの話と、組織全体のカルチャーや雰囲気の話、その両方が組み合わさっています。一人一人の人が元気であっても、組織がギスギスしていたら、それはウェルビーイングとは言えません。会社の制度は立派でも、個々の従業員が燃え尽きていたり、疎外感を感じていたりすれば、それも問題であります。この両輪がうまく回って初めて、コーポレートウェルビーイングが実現すると言えます。 この考え方が今注目されている背景には、時代の変化もかなり大きく影響しています。以前のように、とにかく経済成長や物質的な豊かさを追求するだけでは、何か満たされないものを感じる人が増えているということがあります。経済が成長して、基本的な生活が満たされるようになると、人々は次なる価値、つまり精神的な充足感や自己実現、社会とのつながり、そのようなものを求めるようになります。 働き方においても、単純にお金を稼ぐ手段としてだけではなく、自己成長や社会貢献の場として意味合いを重視する人が増えています。グローバルな視点で見ても、SDGs(持続可能な開発目標)の中で、「働きがいも経済成長も」や「すべての人に健康と福祉を」といった目標が掲げられているように、人間の幸福や健康を経済活動の中心に捉えようという大きな流れがあります。企業も社会の一員として、こうした価値観を無視できなくなっているというわけです。 そしてもう一つ、現代社会特有のストレス要因の増加があります。変化の速さ、情報過多、先行き不透明感といったメンタルヘルスに影響を与える要因は本当にたくさんあります。こうした中で、企業が従業員の心身の健康を支えることの重要性が、かつてないほど高まっていると言えます。 企業側から見て、このコーポレートウェルビーイングに取り組む具体的なメリットとして、従業員の健康が大事であり、この考え方が単なる良いことではなく、戦略であるということが挙げられます。最も直接的なのは、やはり生産性や創造性への影響です。心身ともに健康で仕事にやりがいを感じている従業員は、集中力も高まります。新しいアイデアも生まれやすくなります。 実際に様々な調査で、従業員の幸福度と企業の業績との間には、正の相関関係があることが示されています。例えば、ある調査では、従業員のエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)が高い企業では、そうでない企業に比べて収益性が20%で、生産性が17%高いというような結果も出ています。単純に社員が元気だと雰囲気が良くなるという話ではありません。 人材の獲得と維持、この面でも大きなメリットがあります。現代の特に若い世代は、給与や待遇だけではなく、企業の価値観や働きがい、心身の健康への配慮といった点を重視して、就職先を選ぶ傾向があります。ですから、ウェルビーイングへの取り組みを積極的に発信している企業は、優秀な人材を惹きつけやすくなりますし、既存の従業員の定着率を高める効果も期待できます。離職率が下がれば、当然採用や再教育にかかるコストも削減できます。 加えて、社会的な評価、いわゆる企業価値の向上にもつながります。投資家もESG投資(環境、社会、ガバナンスを重視する投資)の流れの中で、企業が従業員をどのように扱っているか、その健康や幸福にどれだけ配慮しているか、これを重要な判断材料の一つとして見るようになっています。つまり、ウェルビーイングへの取り組みというのは、社会からの信頼を得て、長期的な企業価値を高める上で不可欠な要素となりつつあります。 従業員の幸せを考えることが、単なるコストセンターではなく、生産性向上、人材確保、企業価値向上といった具体的なリターンを生む未来への投資になるというわけです。これは経営層にとってとても重要な視点です。まさに従業員の幸福を起点に企業の経済価値と社会価値の向上を両立させる未来志向の経営戦略です。この言葉がコーポレートウェルビーイングの本質をよく表しています。 そして、現代の多様性という観点も、このウェルビーイングを考える上で欠かせない要素となります。働き方に対する価値観もライフスタイルも本当に人それぞれであります。多様性の尊重は、コーポレートウェルビーイングの根幹に関わるテーマであります。 性別、年齢、国籍、性的指向、障害の有無といった属性の多様性はもちろんのこと、その人が持つ価値観、キャリアプラン、ライフステージ(例えば、育児・介護といった)の違いにも目を向けて、それぞれが自分らしく能力を発揮できる環境を整えていくことが求められます。画一的な制度や働き方を押し付けるのではなく、柔軟な選択肢を用意することが重要になってきます。 例えば、リモートワークやフレックスタイム制度の導入、副業の容認、育児や介護と両立しやすい支援制度などです。単に制度をつくるだけではなく、それが気兼ねなく利用できる職場の雰囲気、そうした文化を醸成することが必要不可欠です。 同時に、メンタルヘルス問題への対応もますます重要度を増していくことになります。これも多様性の一環とも言えます。現代社会において、メンタルの不調を抱える人というのは増加傾向にあり、これは企業にとって大きな課題です。重要なのは、早期発見と早期対応、そして予防です。ストレスチェックの義務化はもちろんですが、それだけではなく、従業員が気軽に相談できる窓口を設置することも大切です。 社内の相談員だけではなく、プライバシーに配慮した外部の専門機関(EAP:従業員支援プログラム)といったものと連携して、カウンセリングを受けやすい体制を整えることも有効です。管理職の方が、部下のメンタルヘルスの変化に気づいて適切に対応するための研修、ライフケア研修、これも重要です。不調を個人の問題として片付けるのではなく、組織全体の支えとして予防していくという意識を持つことが求められます。 コロナ禍を経て、私たちの働き方や価値観は大きく揺さぶられてきました。多くの人が「本当に大切なものは何か」「自分にとって幸せは何か」ということを問い直すきっかけになったように感じます。この経験はコーポレート・ウェルビーイングの考え方にどのように影響を与えていくのでしょうか。それは非常に大きな影響を与えたと言えます。 リモートワークの普及や働き方が物理的に変化しただけではなく、孤独感や将来への不安を感じている人が増えた一方で、家族との時間や地域とのつながりの大切さを再認識する機会にもなりました。ここから興味深い点なのですが、個人の幸せについて考えることから一歩進んで、組織として幸せって何だろうという問いに向き合う動きが加速しています。これが集合的ウェルビーイング(コレクティブウェルビーイング)と呼ばれる考え方です。 パンデミックという共通の困難を経験したことで、私たちはチームとして、この組織としてどんな状態を目指したいのか、どんな価値観を共有して、どんな関係性を築いていきたいのかといった、より共同体的な視点が重要視されるようになりました。集合的ウェルビーイングは、個人の幸せの単なる合計ではなく、チームや組織全体としての良好な状態ということになります。これは新しい視点でもあります。 どんな状況でも助け合い、支え合える関係性があるか、あるいは組織の目標達成と個々のメンバーの成長や幸福感がうまく連動しているかといった問いに、自信を持ってイエスと言えるような状態を目指すということです。これはトップダウンで強制できるものではなく、日々のコミュニケーションや協力の中で、メンバー自身が主体的に築き上げていくものになります。 その集合的ウェルビーイングや個人のウェルビーイングを育む上で鍵となる要素は、コネクションが重要です。つまり、つながりです。人間は社会的な生き物ですから、他者との有効な関係性の中で、安心感や帰属意識を得ます。職場においても、上司や同僚との間に信頼関係があり、互いに尊重し合える、そういうつながりを感じることは、ウェルビーイングに非常に大きな基盤となります。どんなに仕事が面白くても、人間関係が最悪だったりすると、つらい状況です。 でも、そのつながりをどうすれば育まれるものでしょうか。飲み会を増やせばいいみたいな単純な話ではありません。本質的なつながりを育む土台として、まず不可欠なのが、心理的安全性(サイコロジカルセーフティー)の確保です。これはチームの中で自分の意見を言ったり、質問したり、間違いを指摘したり、失敗を認めたりしても、罰せられたり、恥をかかされたり、人間関係が悪くなったりしないと、メンバーが信じている状態のことです。この安心感があるからこそ、本音の対話が生まれ、建設的な議論が可能になり、結果として強いつながりが生まれると考えられます。自由に発言できないとか、失敗が許されないような雰囲気では、表面的な付き合いはできても、本当の意味での信頼関係やつながりはなかなか生まれません。 心理的安全性を土台とした上で、共通の価値観の醸成も重要になってきます。私たちは何を大切にして、どこに向かっているのかという組織としての目的や価値観が明確であって、それがメンバーに共有されて共感されていることも、これも一体感やつながりを生む上で欠かせません。 さらに健全な多様性の受容(違いを認め合って、それぞれの強みを活かせる環境)や、感謝と称賛の文化(互いに貢献を認め合って感謝の気持ちを伝え合う習慣)があり、これらが相互に作用し合ってポジティブなつながりを育んでいくと考えられます。 日々のコミュニケーションの質が問われます。互いの意見や感情に敬意を払って、しっかりと耳を傾けられているか、相手の成功や成長を自分のことのように喜べるか、困っている人がいたら自然に手を差し伸べられるか、といった相互尊重と相互貢献の姿勢が基本です。 また、意識的にウェルビーイングについて対話する機会を持つことも有効です。最近どんなことにやりがいを感じているか、何か困っていることやサポートが必要なことがないかといった会話を、上司と部下、あるいはチームメンバー同士で定期的にかつオープンに行えるかどうか、こうした対話を通じて互いの状況や価値観への理解が深まり、必要なサポートにもつながりやすくなります。 加えて、ウェルビーイングを多角的に捉える視点も忘れてはなりません。仕事上のやりがい(キャリアウェルビーイング)だけではなく、良好な人間関係(社会的ウェルビーイング)、それから経済的な安定(経済的ウェルビーイング)、心身の健康(身体的ウェルビーイング)、そして地域社会とのつながり(地域社会のウェルビーイング)、こういったさまざまな側面が相互に関連しあって、個人の総合的な幸福感を形作っていきます。企業としても、これらの側面を考慮に入れた支援を考えることが望ましいです。 こうした文化や仕組みを組織の中に根付かせていくためには、やはりリーダーの役割が非常に重要です。リーダーには具体的にどのような行動や姿勢が求められていくのでしょうか。リーダーの役割は極めて重要です。組織のウェルビーイングを高める上で、リーダーはいくつかの異なる性質を持つ必要があります。 一つ目は、設計者(アーキテクト)としての役割です。ウェルビーイングが育まれるような組織構造、制度、プロセス、そして物理的な環境をデザインするという役割です。心理的安全性が保たれるチーム運営のルールづくりや、多様な働き方を支援する制度設計などが必要です。 二つ目は、教師(ティーチャー)としての役割です。ウェルビーイングの重要性をメンバーに伝え、その価値観を組織文化として浸透させていく役割です。自らがウェルビーイングについて学び続けて、その知識や考え方をメンバーと共有し、対話を促す、そういった姿勢が求められます。 そして三つ目が執事(スチュワード)、あるいはサーバントリーダーとしての役割です。メンバー一人一人に寄り添って、彼らの成長や活躍を支援し、奉仕する姿勢です。メンバーの声に耳を傾け、彼らが能力を発揮しやすいように、障害を取り除いて働きやすい環境を整え、権威を振りかざすのではなく、支えるリーダーシップです。これら多面的な役割を状況に応じて使い分けながら、組織全体のウェルビーイング向上を牽引していくことが期待されます。 設計者、教師、執事、リーダーには、本当に多様な能力や、深い人間理解が求められる時代になってきています。 全体を振り返って、これは単に従業員に優しくしようという話ではなく、個人の幸福感を起点としながら、組織全体の生産性、創造性、そして最終的に企業価値そのものを高めていくという、極めて戦略的なアプローチです。 重要なことは、理想論やスローガンで終わるのではなく、そのためにこれから何をするのか、つながりを核とした心理的安全性、共通価値観の浸透、そしてオープンの対話といった具体的な要素を、日々の業務や組織運営の中で着実に組み込んで実践し続けていくことが不可欠になります。一朝一夕に実現するものではなく、継続的な努力が求められる取り組みです。 コーポレートウェルビーイング、これは単なるトレンドワードとして消費するのではなく、これからの時代の働き方、そして組織のあり方を考える上で、非常に深く示唆に富んだ概念であるということを改めて感じていただけるのではないでしょうか。 職場やチームでは、意識的に他のメンバーの立場や視点、感情(共感的な姿勢)を理解しようと努める機会はどのくらいあるのでしょうか。そうした共感的な姿勢、あるいはその欠如がチーム全体の雰囲気や孤独感に影響します。日々の忙しさの中で、立ち止まって考える機会もないかもしれませんが、この問いが職場をより良くしていくためのきっかけとなります。
Author: wp-dsqzluv
世界経済動向
251106 世界経済動向 世界経済を一言で言うのであれば、不確実性の中で底堅く推移する世界経済、不確実性の中で、底堅く推移する世界経済。このような言い方ができると考える。IMFの発表した最新の世界経済見通し、10月14日に発表された最新によると、世界の成長率は2024年は各国ともインフレ圧力の抑制を図り、3.3%で、今年2025年は3.2%ということである。4月時点の発表が2.8%、7月が3.0%だったのが、さらに10月では上方修正されている。この背景にあるのが、追加関税が当初想定されていた水準を下回ったこと。それと、関税導入前の駆け込み需要というこれでの貿易の増加、何よりも心配されていた報復関税の応酬といった最悪の事態が回避されたこと。そして、AI市場の拡大というのも、成長を後押ししている。 国別に見ると、アメリカはこの伸びは鈍化するものの、まず堅調に推移する。ヨーロッパと日本は回復。中国は引き続き減速、インド・ASEANは引き続き高成長を維持し、2026年、世界の成長率は3.1%としている。各国とも不確実性の中で、柔軟な対応を取っており、国によって濃淡はあるものの、全体としては底堅く推移すると見立てている。 これはアメリカが設定した追加関税の税率であるが、各国の交渉の末、当初想定された関税率を下回る水準となっている。日本とEUの自動車関税も15%に落ち着いている。また、中国とはレアアースの輸出規制をめぐって一悶着あったものの、輸出規制の延期ということで、アメリカの100%追加関税は回避された。一方で、アメリカは関税交渉と引き換えに、日本やEU、韓国といった国から巨額の対米投資のコミットメントを獲得している。こうした形に落ち着いてはいるものの、この貿易摩擦というのは、依然として不安定な状況なので、今後とも注視が必要である。 それと、先日もあったが、カナダで完全に批判的なコマーシャルが流れたとして、10%追加課税が発表された。関税政策というのは、トランプ政権において対外交渉の最大の武器となっている。 こうした中で、アメリカ以外の国々で経済連携が活発化している。アメリカ抜きの連携である。アメリカ抜きの連携の中でも、下から2番目のCPTPP(TPP)は、EUだとか、ASEANの加入に向けて連携を強めている。一昨日もフィリピンとUAEが加盟申請する発表もされていたし、今、加盟申請中の国でも8カ国ある。今後、さらに拡大すると考えられる。票の下から、主要国の状況はどうかということであるが、各国とも政策対応によって底堅い経済成長としている。とは言っても、濃淡はあるということである。 主要各国の状況において、政治や経済も動いているので、若干変化していく部分もある。まず、アメリカは、アメリカの経済成長を常に下支えしているのが、GDPの7割を占める個人消費で、これが引き続き、堅調に推移すると見ている。足元では、雇用の伸びというのは減速しているものの、消費は堅調で、特に非耐久財とサービス、この2つの支出が増えている。7月にはBBAという減税法案も成立し、景気を押し上げる効果も期待できる。FRBが9月、10月と2会合連続で政策金利を引き下げたものの、それでも上限値で4.0%である。アメリカの中立金利は3%程度と言われているため、金利を引き下げるという政策余力も持っている。したがって、今後とも、個人消費を中心として、底堅く成長すると見ている。 心配なのは、次の中国である。不動産不況が続いている中で、景気刺激策として、消費拡大へ向けた補助金の政策というのを打ち出しており、これは一定の効果が出ているものの、年内で一巡すると見られている。EV減税というのも年内で終了する。足元で販売台数が伸びていたこともあって、2026年の自動車販売台数は急減速する可能性がある。そのため、個人消費の成長は鈍化していくものと見られるので、内需の成長が見込まれないことから、経済成長は減速すると見ている。 ヨーロッパは回復基調にある。自動車産業は、関税の影響を受けて、その影響が大きいドイツ、このドイツの成長は低下している。第2四半期では、マイナス成長に転落している。しかし、以前のように、ドイツがEU経済を牽引しているという状態ではないため、ヨーロッパ全体としては、緩やかな回復と見ている。その背景にあるのが、インフレの鈍化、そして実質賃金が上昇していることである。政策投資だとか、金利引き下げが個人消費の回復に寄与しており、こうしたことが内需を支えていくと見ている。 グローバルサウスはというと、インドである。インドの名目GDPは、日本を抜いて第4位になる見通しで、人口は昨年、中国を抜いて世界一である。世界経済の中でも重要な存在になっており、中東だとか、ASEANとの経済連携や協調、この動きも加速している。引き続き高成長を維持すると見ている。 ASEANはポスト中国として成長しているが、国によってばらつきがある。内需主導型のフィリピン、インドネシアは引き続き高成長、外部依存、外需依存の強いマレーシア、タイ、シンガポールは減速している。ベトナムも外需依存が高いが、足元では力強い成長を見せている。ただし、ベトナムは対米輸出の依存度が30%と高いため、今後の成長リスクとなる可能性があり、注視しておく必要がある。 世界経済のリスクを3点にまとめる。1点目は、広範囲の関税引き上げや高い相互関税の影響である。貿易政策の不確実性指数の推移より、相互関税が発表された4月には、急激な不確実性の高まりを見せていたものの、その後、各国との交渉合意が進むにつれ、低下している。これはトランプ政策の不確実性も相まって、まだ高い水準になっている。また起こり得るのではないか。 企業業績への影響ということであるが、最も大きい輸出品目である自動車の影響が大きい。自動車関連は、日本の対米輸出の総額における3分の1を占めている。そのため、日本経済への影響が大きい。各自動車メーカーの4月、6月の影響額で、合計すると、四半期で約8,000億円の影響が出ている。追加関税が15%に落ち着いたとはいえ、自動車各社への影響は避けられないし、円高に振れてくると、業績への影響も拡大すると見ている。 世界の貿易量、成長率であるが、これまで急ブレーキがかかっている。輸出企業を中心に、ビジネスモデルの転換だとか、サプライチェーンの見直しを検討していく必要があると考えている。 2つ目のリスク、国家間の武力紛争、そして誤情報、偽情報である。ロシア・ウクライナ侵攻、ガザ・イスラエル紛争に加えて、今年に入って、タイとカンボジアの国境紛争が再び激化したが、ここは和平合意をした。しかし、こうした紛争が日本企業に影響を及ぼすケースが今後も考えられるため、対岸の火事と捉えることなく、有事の際の対応というものをマニュアル化しておくことが必要である。いつ火の粉が飛んでくるかわからない。 それと、誤情報や偽情報である。特に気をつけないといけないのが、AIによる情報のねつ造である。AI動画は怖い。一目見ただけでも見分けがつかなくなってきている。以下は短期的・長期的リスクの深刻度のランキングである。特に短期的リスクについては、こうしたリスクを認識するということだけではなくて、企業が解決すべき社会課題として捉える、このような考えも必要になってくるのではないかと思う。 3つ目は、その下からあるが、気象異常、気象や激甚災害ということで、グラフにあるように、ここ数年、自然災害による経済損失は拡大している。大地震などもそうであるが、自然性そのものを事前に止めることは難しいため、いかに被害を少なくするかということが大切になってくる。ここも、企業が社会課題として捉えて解決していく分野でもあり、政府も力を入れている。例えば、国土強靭化だとか、防災減災、このような分野である。したがって、こうしたマーケットは拡大していくと考えている。 世界経済の潮流ということで、5つにまとめている。まず、この物価・消費の潮流について、消費者物価指数の変化率であるが、アメリカ、イギリス、ドイツは、関税の影響もあって、緩やかな上昇を見せているが、その他の国は低下トレンドにある。日本も2%台に低下している。世界のインフレ率は、2025年は4.2%、2026年は3.6%に低下すると見られている。これは、2023年が6.8%、2024年が5.8%だったため、世界的な金融引き締めだとか、サプライチェーンの見直しが功を奏しており、今後も先進国を中心に、インフレ率は目標水準にまで低下していくと見立てている。 一方、この消費はどうかというと、これは二極化が進んでいる。消費の二極化というのは、高価格帯の商品やサービスの支出が増える一方で、生活必需品では、節約志向が高まって、低価格帯の商品の需要が高まる、このような現象である。そのため、中間価格帯の商品は売れにくくなる。その背景にあるのが、所得格差の拡大ということで、これは地域別の国民所得シェアを示しているが、北米だとか、中東地域の格差が大きいというイメージが湧いてくる。しかし、実際は、世界全体から見ると、そうでもない。このグラフの青色と、左のグレーの棒グラフを比べてみると、わかるが、一番右に世界とあるように、世界全体で見たときも、この所得格差は大きいのである。したがって、所得格差は世界的な課題でもある。 所得格差の拡大というのは、消費に回るお金が一部に集中して、全体としての消費が伸び悩む原因にもなると同時に、政治不安にも気がつきやすいため、経済全体としても歓迎されるものではない。 開発と投資の潮流。日系企業へのASEANへの生産移管が進んでいる。理由は日本国内における人手不足ということであるが、この図表を見ると、中国への移管が72件に対して、ASEANが289件であり、圧倒的に上回っている。また、中国からASEANにシフトした企業が176件ある。これには関税対策というのもある。いずれにしても、チャイナリスクを回避するという点でも、ポスト中国としてのASEANの存在感が高まっている。 このデータは、日系企業の進出企業の営業利益の状態を国別で示したものであり、青色の部分が黒字企業である。中国への進出企業は、黒字企業が6割を切っており、業績が厳しくなってきている。逆に日系企業で数多く進出しているアジアの国で言うと、黒字企業が多いのが、台湾とインドとインドネシアとマレーシアである。黒字企業は7割を超えている。利益が出せる国へ投資する、このような考え方も必要になってくると考える。 もう1つは、クロスボーダーM&Aである。コロナショック以降、このクロスボーダーM&Aによる海外進出は、再び増加している。2024年の実績を見ると、アメリカが213件と最も多く、次いでシンガポールの51件、またヨーロッパだとか、ASEAN、中南米の企業買収も10%以上伸びている。クロスボーダーM&Aの目的は、国内市場が成熟化している中で、海外にマーケットを求めるということである。昨年も申し上げたが、グローバルで見れば、日本のGDPはわずか5%、残りの95%は日本の外にある。したがって、クロスボーダーM&Aという新しい経営技術を取り入れて、海外転換に取り組んでいただきたいと考えている。 金融財政の潮流について、終わりが見えてきた利下げ局面、増える公的債務とある。現在、主要国の政策金利は、インフレ率の低下に伴って、引き下げの局面にある。まず、アメリカは、今年に入って、しばらく据え置かれていた。FRBは9月0.25%、10月0.25%と連続して引き下げを決定し、現在上限値で4.0%になっている。今の状態だと、12月の会合では引き下げないのではないかと思うが、金利というのは、物価だとか、雇用と連動しているため、こうしたところが落ち着いてくると、金利は下げられる。ただ、問題は、パウエル議長、FRBのパウエル議長の任期が来年の5月に迫っているため、その後のトランプの影響力が強くなる可能性がある。彼は低金利を志向しているため、FRBに対して、金利引き下げを強く要請している。そのため、FRB議長交代後に急激な金利引き下げの実施があると、為替にも影響を引き起こすため、注視しておく必要がある。EUは、昨年の秋から今年の6月にかけて利下げを7回行っており、現在、政策金利は2.15%である。インフレも落ち着いているため、利下げ局面も終わると見られている。 中国は、不動産市況の低迷と景気対策から、緩やかな引き下げを行って、現在3%である。今後も景気動向を見ながら追加緩和の可能性がある。下にあるのが、公的債務、世界の公的債務であるが、これが増えている。裏返せば、積極財政が行われる。したがって、そのリターンを増やしていくことが大切である。例えば、企業の利益、あるいは個人の所得が増えて税収が増える、このようなことが求められるのである。 産業・技術の潮流とあるが、この分野には、成長の突破口となるビジネスチャンスが埋もれている。まずは、このAI市場。AI市場は今後急拡大すると見られている。これは、かつてのパソコンだとか、スマートフォンのように「あったらいい」から、「なくては困る」ツールになってくる。このAIと切り離せないのが、半導体とデータセンターである。半導体は、AI向けのロジック半導体と、データセンター向けのパワー半導体のどちらも伸びてくる。それと、AIの普及に伴って、需要が急増するのが、今申し上げたデータセンターである。今、建設ラッシュである。データセンターは、AIの処理能力の要求に応えるために、大量の電力が必要になってくる。それと、発熱量がすごい。 データセンターは電力を大変大量に消費する。一方では、クリーンな電力の使用を求められる。そこへ太陽光パネルだとか、蓄電池を設置して、データセンターの電力を再エネで賄うことができる。AIだとか、このデータセンターに一見なんら関係のないような企業にも、ビジネスチャンスがある。 成長するこのAI市場、自社の成長に取り込むキーワードは、半導体、電力、電気、データセンター、このあたりである。こうした周辺にチャンスの発見がある。 再生可能エネルギーについて、ペロブスカイト太陽電池が今、注目されている。薄っぺらいシートで、ふにゃふにゃっと曲げられる、そのような太陽電池である。積水化学工業がリードして事業化を進めているが、すでに大阪の梅北地下駅には設置されているし、先般の大阪・関西万博の会場にも、西口ゲートのあたりに設置はされていた。これが、いよいよ量産化に入る。量産化に入り、2040年には4兆円の市場になると言われている。それと、脱炭素エネルギーという点では、原子力発電が、ペロブスカイト太陽電池とともに、高市政権のエネルギー政策として挙げられている、原子力発電に関わるマーケットにチャンスがある。 電気自動車のEVは伸び悩んでおり、PHVが主である。自動車メーカーは、すでにPHVだとか、ハイブリッドに戦略を転換している。EVはやはり価格面とこの充電インフラの問題が大きい。自動運転では、今年の9月の25日、つい先日であるが、トヨタのウーブンシティが開業した。これは自動運転の実証都市である。豊田章男会長の長男が個人として仕切っている。e-Paletteという自動運転に対応したモビリティで、すでに販売もされている。ここも今後成長していく可能性がある。 協働ロボット 労働・雇用の潮流ということであるが、人手不足というのは、世界の課題である。日本だけではない。主要な7カ国において、日本の生産年齢人口の減少幅が圧倒的に大きいのがわかる。青色の折れ線グラフである。一方、グローバルサウスはというと、インドは引き続いて増加し、2050年では、日本の生産年齢人口の約20倍の規模である。下の方の表で見るとわかりやすいが、インドとアフリカ以外の国は、2040年あたりで頭打ちになってくる。そのため、インドやアフリカというのが、今後、魅力的な労働マーケットになってくると考えている。 この世界経済は、不確実性を抱えながらも、各国の柔軟な対応によって底堅く推移していく、底堅く推移する。不確実性が常態化している中だからこそ、変化を恐れず、むしろ、その変化の波に乗るために、創造性、行動力という経営者、リーダーシップが、私たち経営者に求められている。
ブレークスルー戦略
251105 ブレークスルー戦略、揺るぎない成長への意思 経営の原則は、大局眼、小局着手である。ここ数年の経営環境を振り返る。コロナウイルスの収束宣言が出された2023年から翌年の2024年にかけて、日本経済は失われた30年といわれるデフレ経済の長いトンネルから抜け出して、インフレ経済への移行と、新しい30年サイクルへ向けての大きく舵を切っている。 この間、企業は脱コロナの掛け声のもとで、経営のスタイル自体を見直し、コロナ禍で失った顧客を取り戻した。賃金を上げながらも、コストアップを価格転嫁で吸収し、そして円安の後押しもあって、上場企業の業績は過去最高益を連続して更新している。 2023年度は、新しい成長に向けて、自己革新能力を発揮せよということで、新バリューチェーン戦略、すなわちコロナ後における新しいバリューチェーンの変革を提言した。2024年度は、ジャパンクオリティで世界をリードしていこうという、クオリティリーダーシップ戦略、すなわち日本企業の卓越した価値をブランディングしていこうという提案である。2025年度は、湧き上がる未開のマーケットに積極果敢に踏み込んでいこう、こんな意味を込め、フロンティア戦略を提言した。 そして、今年、2025年、トランプ2.0で幕を開けた。トランプ関税の発動で、保護主義へと大きく舵を切って、為替変動だとか、WTOの機能不全、そしてG7の影響力の低下、地政学的なリスクというのも招いた結果、世界の不確実性はコロナショックを上回る水準となる。 トランプの一言、あるいはつぶやきで世界が動く。そんな不確実性の高い経営環境と言える。こういった経営環境下にあるにもかかわらず、各国の柔軟な対応によって、インフレの緩やかな低下、AI技術の活用と市場の成長、グローバルサウスの拡大、そしてグローバルサプライチェーンの再構築といったように、多極化、多角化で対応しながら、全世界は底堅く、緩やかなプラス成長を維持している。 グラフでもう一ついただきたいのが、この赤色の点線である。これは、1990年から、現在までの不確実性指数のアベレージである。このアベレージがリーマンショック以降、ほぼ平均値を上回っている。すなわち、不確実性が常態化している、常に不確実な時代である、こんなふうにも言えるのである。 日本は円安とこの物価上昇の後押しもあって、名目GDPは、昨年には600兆円の大台を突破した。この600兆円というのは、2015年、当時、安倍首相が掲げたアベノミクス、新3本の矢の第一の矢として、目標設定をされたものなのである。それからもう10年経っている。300兆円から500兆円までは10年を要していなかったが、600兆円の突破には30年以上の長い年月をかけた。 では、物価はどうかというと、原材料の高騰といったコストプッシュが引き起こした、過度なインフレの状態から、需要喚起型のデマンドプルへとインフレ率も低下し、適度なインフレへと移行しつつある。 また、今年の春闘では、34年ぶりの高水準になった。そして、実質GDPも5四半期連続のプラス成長回復を維持している。新政権も発足し、株価も5万円を突破した。不確実性を乗り越えるこの強い経済への政策に期待が高まっている。 一方では、この労働力人口の減少による人手不足が常態化し、さらに加速していく。今後、金利ある世界から金利が上がる世界へ加速していく。そして消滅都市が加速していく。日本経済は、コロナ後のすでに起こっている未来への大転換途上にある。このように言えるのであり、不確実性というのが常態化している中、そして、大転換の途上にある経済環境において、私たち経営者の価値観として求められるのが、揺るぎない成長への意思である。 今、経営者は揺るぎない意思を持って成長していく覚悟が求められている。ユニクロの柳井会長は、こんなふうに言っている。「成長なくば、死も同然。」非常にインパクトのある言葉ではある。この先が見えないから、立ち止まって様子見をするだとか、目先の対応に終始するといった現状維持の経営というのは、衰退を意味する。企業経営というのは、成長するか、衰退するかの二択である。不確実な時代だからこそ、長期的な視点を持ちながら、未来を切り開くための、確固たる成長への意思、これが必要なのだと考えている。 そして、この経済の大転換途上においては、これまでとの連続性を持った成長というのを思考するのではなくて、非連続な成長に向けた戦略思考へのマインドセットの大転換、これが求められる。したがって、企業が持続的な成長を実現するには、これまでの常識を超えるレベルでの非連続な変化によるブレークスルーが不可欠である。このブレークスルーの鍵は、新しい経営技術を取り入れる勇気と、自社らしさを進化させることへの戦略的実装にある。そのために、どのようにブレークスルーを起こすのか。その実現に向けて、何へ投資して、誰と組むのか。そして、どこに突破口を生み出すのか。この3つの問いと向き合っていただき、経営の中核そのものを変える決断と実行という経営者リーダーシップを発揮していく。そして、持続的成長に向けて、非連続の変化を起こしていく。
よい職場の雰囲気をつくる
251103 よい職場の雰囲気をつくる チームのパフォーマンスや職場の雰囲気を、あるシンプルな法則で改善できる、まさにそれを可能にするフレームワークである成功循環モデルについて説明をしていきます。これを知れば、明日からの仕事がきっと変わるはずです。一度は考えたことあるのではないでしょうか。どうやったら、職場の雰囲気がもっと良くなり、働きやすくなるかということです。これはリーダーだけではなく、チームの一員なら、誰でも抱え、なかなか答えの出ない悩みでもあります。この問いに答えを示す理論があります。それが成功循環モデルということになります。組織にポジティブな変化をもたらすための、シンプルで、しかも裏付けのある、とても効果的な考え方のフレームワークであります。このモデルを提唱したのは、組織開発の専門家、ダニエル・キムであります。この理論のポイントは、とてもシンプルで、成功しているチームにはある共通点があるということを挙げております。 その共通点は、4つの大事な質が関わってきます。まるで歯車みたいに、がっちり噛み合って、お互いをどんどん高め合っていき、好循環が生まれる状態になります。逆に言うと、多くの組織がうまくいってない状況においては、この歯車のどこかがかみ合っていない、悪循環に陥ってしまうという状況にあります。 その良いサイクル、好循環を生み出す4つの質は、まず一つ目は、全ての土台になるのが関係の質であります。お互いをよりリスペクトして、信頼し合えるかということです。 2番目が成功の質です。安心できる関係があるからこそ、生まれる、前向きで、良いアイデアが創出されます。 3番目は、そのアイデアをただの思いつきで終わらせないための行動の質です。 4番目は、これらが積み重なって生まれる、目に見える成果、結果の質です。 この4つの要素が、成功への鍵を握っていることになります。この4つの質が、バラバラにあるのではなく、順番があり、前の質が次の質を高めていくということになります。この流れ、方向性を理解することが、このモデルを使いこなすための第一歩となります。まず、良い人間関係を築くことです。これが、心理的な安全性や信頼の土台を作るということになります。そうすると、メンバーがビクビクしないで、安心してどんどん新しい良いアイデアを出せるということになります。そして思考の質が上がっていくことになります。良い考えが浮かんだら、それは自然と良い行動につながっていきます。そして質の高い行動を行えば、当然質の高い結果も生まれてきます。結果が出たら、チームのモチベーションも上がり、さらに人間関係も良くなっていきます。 これが無限に成長し続ける、好循環の出来上がりになります。このモデルが示す一番大事なことは、結局、一番の起点が、組織の中における人と人の関係の質であるということです。多くの組織において、どうしても結果を出さなければならない状況にあります。でも、良い結果というのは、良い人間関係という土壌があって初めて実る果実のようなものです。いきなり結果から入ろうとすると、このサイクルで考えると、うまく回ることにはなりません。 このサイクルは、経営者自身やマネージャーだけが回すものではありません。私たち一人一人、自分自身から始めることができるものです。皆さんの職場にもいると思います。いつも周りから信頼されて、良いアイデアをポンポン出して、率先して行動して、しっかりと結果を出す人。そういう人たちは、このモデルのことは知らなくても、感覚的にこの成功のサイクルを自分で回して、チーム全体の良い流れを作る中心人物になっていることが多いです。 あなた自身はどんなスタンスで仕事をしていますか。周りの人たちとの関係の質を良くするために、明日からできることは何だと思いますか。チームの思考の質を上げるために、会議でどんな一言が言えるでしょうか。そして、自分自身の行動の質をどうやって高めていきますか。全部、あなた自身の選択に関わっていくことになります。これらを難しく考える必要は全然ありません。この大きな成功のサイクルは、普段、周囲の人に声をかける、ちょっとした前向きな一言から始まることもあります。会議で出たアイデアに、「それいいね」と声をかけること、そこから始まることもあります。職場の未来を変える力は、どこか遠くにあるのではなく、今日、あなたが起こすたった一つの小さなポジティブな行動の中に、もうすでにあります。
魅力ある会社づくり
251102 魅力ある会社づくり 魅力ある組織を作り、多くの人は働きがいがあって、引き寄せられるような組織を求めています。その魅力について説明していきます。人が引き寄せられるのは、魅力に引き寄せられるからであります。多くの人は、雰囲気の良さや、福利厚生など、思い浮かべるかもしれませんが、魅力は、単純に心地よさだけではなく、将来があり、自分は物心両面の豊かになれるという確信があり、この確信を持てるということがポイントであります。漠然とした期待感ではなく、かなり強い信頼感であり、ここでなら大丈夫である、成長できる、という手ごたえをえることになります。 将来への希望、それから、経済的、精神的な豊かさ、その両方が得られることが、魅力の源泉であります。 雰囲気の良さだけではなく、豊かになれると信じられることが大事であります。働く人の視点から見て、裁量が与えられることや、自分のしたいことができる、また自分の価値観に合っている、ということが大事になります。無心両面の心の豊かさ、つまり精神的な満足感や充実感、これを得るためには、まずは裁量が与えられるということが大事になります。仕事を任されるということ以上に、組織から信頼されるという証であり、自分の考えや判断を生かして、主体的に仕事を進める自由があるということです。これが、自己考慮感や,責任感につながっていきます。 自分の意思で、仕事に関わるということが大事です。これが不足してしまうと、どうしても「やらされ感」という気持ちが出てきてしまいます。「自分のしたいことができる」ということにおいて、仕事の内容そのものに対する興味や情熱、それから、それを通じた自己実現への欲求、これを満たしていくものになります。全ての業務が希望通りとはなかなかいくこともありませんが、自分の強みや関心を活かせる領域があり、挑戦したいと思える課題に取り組める機会が増していけば、仕事に対する前向きな気持ちが大きくなります。自分のエネルギーを仕事に注入して、そして自分の価値観に合っているか、感じるようになります。 組織が目指す方向や、大切にしている文化、あるいは働き方そのものが、個人にとって重要だと考えます。価値観の一致、例えば、社会への貢献をすごく強く意識している人が、短期的な利益だけを追求するような組織にいたら、たとえ待遇が良くても、どこかで違和感を持ち、満たされないという気持ちが感じるかもしれません。逆に、組織の理念や事業内容に深く共感できれば、それが困難を乗り越える支えになり、日々の業務に意味を見出す動機になったりします。経済的な条件だけではなく、自分の判断が尊重され、裁量、興味や関心に合った仕事ができて、さらに組織の目的や文化に共感できる価値観がそろって、初めて、精神的な豊かさ、ひいてはここで働き続けたいという魅力につながっていきます。 経営者の役割については、働く人の立場に立って考えたら、魅力は作られるものです。経営者は常に働く人のことを考えなければなりません。これは、努力目標ではなく、必須の責務として持たなければなりません。具体的な行動としては、付加価値の高い仕事を追求して、そこで得た利益を分配するということです。そして、労働分配率をいかに高くするか、本気で考える必要性があります。単に給料を上げるというだけではなく、会社が生み出した付加価値の全体のうち、どれだけの割合を人件費として従業員側に分配するかということ、その経営判断そのものを意識を高めることが大事であり、無心両面の豊かさへの直結する話になります。 これを怠る経営者は、働く人から見て、魅力がないと、見下されてしまいます。そして、重要であることは、考え方の順番です。経営的にも、精神的にも、豊かにしてあげたいという思いから、仕組みが生まれてくるものであります。経営者は、社員の幸福を真剣に願う強い意志、そして思いがあって、それが具体的な制度設計、公正な評価、適切な報酬、そして労働分配率の向上へといった仕組みにつながって考えていかなければなりません。口先だけの従業員第一ではなく、本気の思いが行動や制度に表れて、それで初めて人は信頼して確信を抱くことになります。従業員を豊かにすることが、短期的なコストよりは、長期的な組織の繁栄の基盤構築に至るまで、つながっていきます。従業員一人ひとりの物心両面の豊かさを追求すること自体が、結果として、組織全体の持続的な成長や発展の原動力になっていきます。 経営者の能力としては、会社がなぜ世の中に必要なのかを語る力、いわゆるプレゼンテーション能力も魅力に関わっていきます。リーダーシップの質そのものが組織の魅力を根幹から支えていきます。経営者自身の能力が高いこと、自分が稼いで、自分の才覚である程度見通しを、自分がどれくらい持てるかが必要であります。これは、事業を成功させて、利益を生み出して、それを分配するための大前提であります。単純に稼ぐだけではなく、自社が社会に対してどういう価値を提供しているのか。この組織が存在する意義があるのか。従業員と社会に向けて情熱を持って語れる力。これが従業員の共感や誇りを,醸成して、この会社で働くことの意味を与えていくことになります。 「事業を成功させる能力」と、その意義を語って共感を呼ぶ力、それに加えて、利益分配への意識、そして、それは経営者一人の話ではありません。幹部も含めて、優秀であることが、魅力的な会社ということも必要です。幹部も、経営者のビジョンを理解して、それを各部門で具体化できる。そういう有能なマネジメントチームの存在も不可欠であります。現場でのリーダーシップを発揮して、部下を育成して、公正な評価を行うことで、経営者の思いが組織の隅々まで浸透して、従業員の日常的な経験として形になっていきます。これらが一体となって初めて、組織全体の魅力、その確信が生まれるということになります。 社員にとって会社の将来性に向けて、自分自身の毎年毎年の能力開発を向上させて、自分のマインド、ノウハウ、スキルが高まって、それに合わせて報酬もポジションも,上がっていけるという見通しが持てるかどうかが大事になります。これは将来性があって、豊かになれるという確信につながります。現在の待遇や仕事内容に満足している、または十分でないと考えるだけではなく、この組織にいれば、自分は着実に成長できる、そして、その成長がしっかりと認められて、報酬や役職といった具体的な形で報われる、そういう明確な見通しが持てるということが大事になります。これが、人を惹きつけて、組織への貢献意欲を高め続けることに、とても大事になります。まさに見通しが立つという感覚です。自分の努力が、成長が将来につながっていくのかが見えないということでは、やはり不安になり、モチベーションも維持しにくいものです。キャリアパスが示されていることや、必要なスキルを習得する研修機会が提供されることや、定期的なフィードバックを通じて、自分の現在値と次のステップが明確になる。そのような具体的な仕組みが、この見通しを支えていくことになります。 年功序列のような固定的な制度ではなく、能力や成果に応じて、早期に責任ある立場に挑戦できる機会があることも、意欲的な人材にとって強い魅力につながります。それに見合った評価や待遇が連動しているという見通し。これもまた物心両面の豊かさに関わってきます。スキルや経験といった心の側面が向上して、それに伴って報酬や地位といった側面も向上していくということが期待されます。 これまで、裁量、価値観、経営者の責任と利益分配、リーダーシップ、その成長の見通しと様々な要素を見てきました。これらを統合して、魅力的な組織の全体像について、どのように言えるか、考えていきます。個々の要素が単独で存在するのではなく、相互に連携して、一つのシステムとして機能している状態、それが魅力的な組織であります。 精神的にも経済的にも報われる会社で働きたいと人は思っています。働く人は、給料だけとか、やりがいだけとか、要素を切り離して考えているわけではなく、仕事を通じて得られる経験の総和、つまりトータルな面で精神的にも、経済的にも満たされたいという思いを持ちます。その総合的な期待に応えることのできる組織,それが真の魅力的な組織だということです。 何事も、人にしてほしいと望むことを、他の人にも、そのようにしなさい。自分が人々にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたも他の人にそのようにしなさいという考え方を持って、いわゆる「黄金律」という考えを目指して、考え方を豊かにしていかなければなりません。自分が従業員だったら、または経営者だったら、どう扱われたいか、何に魅力を感じるのかという視点に立ち返って、組織を設計して運用していく、その立場に立って考えるという極めてシンプルで、普遍的な原則こそが、実は魅力的な組織を作り出す上で、確信になるというものであります。 思いを実現する経営者が従業員に対して、また、従業員同士が互いにこの原則を基本的に捉えることが、結果として組織全体の魅力、つまり、個人の無心両面で豊かになれるという確信を高めていくことになります。 魅力というのは、単なる「満足」だけではなく、将来にわたって物心両面で豊かになれるという強い確信であります。そしてその確信は、個人の裁量や価値観が尊重される環境で生み出し、成果が公正に評価され、価値が公平に分配される仕組み、特に労働分配率への意識であります。それから、自分の成長や、それが、報われる明確な見通し、そして何よりも、従業員の幸福を本気で願って、それを実現する能力と、意思を持ったリーダーシップ、これが相互に連携し、全体として生まれるものであります。 組織が利益の追求だけを目的とするのではなく、そこに関わるすべての人々、従業員はもちろん、お客様、取引先、地域社会も含めて、その人たちを物心両面で豊かにすることを第一の存在意義として捉え直し、自分自身の周りで具体的にどのような行動や仕組みの変化が考えられるか、考えていきます。
イノベーションは知財から始まる
251101 イノベーションは知財から始まる イノベーションをどのように生み出し、そしてどのように育てて、最終的に企業の持続的成長につなげていくか、そのために知的財産戦略やマネジメント、そして,リーダーシップのあり方について考えなければなりません。研究開発や事業戦略に関わる人たちはもちろん、新しい価値創造のプロセス自体に目指している人にとって必要な話となります。 企業の持続的成長のためには、絶対欠かせないものがイノベーションであります。既存事業を伸ばすだけではなく、新規事業を創出して、この2つが車の両輪のように必要であります。イノベーションには2種類あります。1つは、既存のものをより良く改善していく考えに近い連続的イノベーションであります。もう一つが、全く新しい分野を切り開くような非連続イノベーション、いわゆるブレイクスルー型であります。非連続イノベーションにおいては、初期の段階では、既存の枠組みや、常識からすると想定外の考えかもしれませんが、また組織の外にあるように見えることが多いかもしれません。また突拍子もないアイデアにも思えてしまうことが多いです。ここに落とし穴となるものが存在してしまいます。コンピテンシートラップという考えです。 過去の成功体験や自分たちの得意なことに固執してしまうあまり、その想定外や範囲外に見える新しい技術やビジネスモデルの可能性をうっかり見逃してしまいます。柔軟な思考で考え抜くことがとても重要になってきます。柔軟な思考で捉えた新しい発想を既存の知見や技術と結びつける新結合によりイノベーションを創出していきます。これを社会課題の解決の目的につなげて考えていくこと、これこそがイノベーションの本質であります。しかし、誕生したばかりのアイデンティティは非常に壊れやすいという側面もあります。周りの風当たりが強かったり、なかなか理解が得られなかったりすると簡単に消えてしまうというような、そのような儚さを持っています。その壊れやすいイノベーションの種を企業としていかに守って、育てて、そして方向づけていくのか。そこで企業の理念や,ビジョンが重要になってきます。私たちは何のために存在して、どこへ向かうとしているのかという最も根本的な問いかけが必要になってきます。 このビジョンは、一度決めたらそれで終わりではなく、状況に合わせて変化していくし、常に語り継がれていくべきものであります。それが組織全体の羅針盤になり、戦略を進めていくことになります。その戦略を実行して競争優位を築いていくために、強力な武器として登場するのが特許です。特許の本質の力は排他性にあります。他者を排除できるという点です。これを戦略に活用することで、競合に対する参入障壁を築いて、自社の事業領域を守ったり育てたりすることが可能になります。単に発明を守るだけでなく、企業の戦略的な意味合いが持つことになります。他社との違いをどう作るかという点において考えていきます。 次に、コアコンピタンスについて説明します。コアコンピタンスは、他者が簡単に真似できない自社ならではの特徴を表し、強みということです。これをはっきりさせることが、独自性を打ち出す鍵になります。そのために、自分たちの本当の得意分野、技術、コア技術、これが何かということを深く客観的に理解していくことが必要不可欠になります。そして、そのコアコンピタンスやイノベーションの根源には常にサイエンスがあるということを忘れてはなりません。 ここでいうサイエンスは、実験の科学という意味だけではなく、もっと広い意味で捉えます。社会課題の解決につながる本質的な探求や基礎研究のことを表しています。ここでの発見や発明が特許になって、それが事業競争力を生み出し、最終的に企業の持続的成長を支えていくという、そのようなつながりとなります。イノベーションの重要性、戦略的な位置づけをもとに、それを組織の中でどうやって生み出して活性化させていくのか。 ここで逆説的に考えていきます。イノベーションは管理すればするほど生まれにくくなるという性質があります。これはマネジメントの常識からすると相反するものであります。まさにそこがイノベーションマネジメントの,難しさであり、特徴でもあります。マネジメントのやり方は、アイデアを探求する研究フェーズと、製品化を目指していく開発フェーズでは異なります。特に初期の研究フェーズでは、トップダウンで管理するのではなく、多様なイノベーションの芽が自由に生まれて育つような環境づくりが必要になります。新しいアイデアを持っている人は、管理されたいわけではなく、自分のやりたいように試したいという内発的動機を持っています。 多くの研究開発組織が陥りがちな課題が、管理型マネージャーや支配的リーダーの存在がイノベーションのある意味大きな阻害要因になり得るということがあります。部下を自分の思った通りに動かそう、コントロールしようとする姿勢がかえって才能の目を摘むんでしまいます。その対極にあるのが、部下が自ら考え、行動するということを心から信頼するマネージャーの姿勢であります。部下の主体性、才能や才覚、能力を信じて任せるということです。そうすると、驚くことに、マネージャーが想定している以上の成果につながることが往々にしてあります。管理支配から、信頼・エンパワーメントへの転換こそが、イノベーションを解き放つ鍵であるということです。 信頼して任せるだけではなく、リーダーにはさらに能動的な役割も求められることになります。困難があっても諦めずにやり遂げる力、課題、障害を乗り越えて実現する力も必要であります。そこが,リーダーシップの求められるものになります。選択理論心理学に基づいて、人の行動は、罰や報酬みたいな外部から得るものではなく、内側の要求によって動機づけられるという視点で考えます。イノベーションを促進するリーダーの資質を上げていくために、まずリーダー自身のあり方や,姿勢に関わることについて、例えば、物事の本質を常に追求する探究心や本質への追求、それから困難な状況でもユーモアを忘れずに気分転換ができるしなやかさやおおらかさが大事になります。そして、懐が深く厳しいけれども温かいこと。高い基準を持ちながらも、人間的な温かみで人を包み込んで支える力も求められます。周囲の人、人の意欲を引き出して生かす、そういう人間力みたいなものが必要になります。 風土改革は、まずリーダー自身が変わることから始まります。本人が実践していかなければ、組織には響くものではありません。風土改革の目的は、組織全体で,ビジョンやミッションを共有して、社員一人一人のエネルギーの方向性を揃えるベクトルの一致を図ることであります。それを通じて、自律的に考えて行動できる自律人材を育成して、組織全体を活性化させていきます。そのために、リーダーの求められる具体的な行動について、例えば、コミュニケーションの面について、ビジョンを常に未来を語り続けるという情熱と客観性も必要になります。そして、一方的に話すのではなく、関係者の話を聞く耳を持って一緒に考えて、相手への興味と関心、共感を示し、同じ目線で議論することが大事になります。 さらに、メンバーの可能性を最大限に引き出すための行動として、まずは、行動してみようと挑戦を促して、失敗も許容する姿勢でやってみようという精神も大切になります。多様性を尊重して、人材にレッテルを貼ることなく、自分自身の言動が時には意図せず相手を傷つける可能性、つまりハラスメントにつながるかもしれないということを自覚して、常にチェックする謙虚な姿勢も大切になります。それぐらい自己認識が重要になるということであります。求められるリーダーシップ像については、いわゆる人を管理して統制するタイプのリーダーとは性質が異なります。むしろ、個々の可能性を信じて、人が自律的に活躍できるような環境や文化を作り出すことに焦点が当たることになります。 個々のリーダーの資質や行動はもちろん重要でありますが、それだけでは十分ではなく、組織全体の仕組み、いわばイノベーションを生み出すためのエコシステム(自然にバランスと調和をとれる環境)を構築することも不可欠であります。例えば、短期的な利益目標を示す経営指標と、長期的な視点が必要な研究開発、マネジメントをどう連携させるか、この関係性をしっかりと理解して適切に設計することが、持続的成長のために欠かせません。それから、創造性を刺激するカオス、つまりある程度の自由さや混沌とした状態と効率的な実行に必要な秩序、この両方のバランスを取るという高度なマネジメントも求められます。自由な発想を奨励しつつも、無秩序に陥らないための仕組みが必要になるということです。その土台となるのが、適切な組織風土の醸成となります。常に学び続けて、変化に適応していく学習する組織であり、実行や実践が伴います。人材育成に投資にも奨励して、そして組織の目標と個人の成長をしたいという欲求がうまく重なり合うように、関係性の整合性を取るコミュニケーションが日常的に行われていることが大切になります。これらがそろって初めてイノベーションが継続的に生まれていくということになります。 そして、目指すべき最終的な姿というのは、自律的な人材による活発な研究開発がダイナミックに推進される組織ということになります。活発な研究開発というのは、トップからの指示待ちに頼るのではなく、現場の多様な知見やアイデアが活発に議論されて、試されて、育てられていくことになります。そのような生命力あふれる組織像が大事になってきます。イノベーションは決して運任せや、偶然の産物ということではありません。まず、企業の理念やビジョンに根ざした戦略的な基盤があって、自社の差別化があり、そして人を管理するのではなく、信頼して可能性を引き出すマネージメントスタイルが必要であり、さらにそれを下支えする人間的な温かみを持って学習と挑戦を促すようなリーダーシップがあり、そうしたリーダーシップによって育まれた組織文化が土台として必要になります。
指示待ちと見られがちな社員をどのように育成していくか
251025 指示待ちと見られがちな社員をどのように育成していくか 言われたことしかできないという指示待ちと見られがちな社員をどのように育成していくか。どのようにすれば主体性や意欲を引き出して、共に成長していけるものか、その核心に迫ります。全体を通じて言える大事なことは、信頼関係を築き、本人のモチベーションを高め、そしてスキルを高めていく、この3つの要素です。そして、それらをつないでいく対話の重要性がなければなりません。何よりも、その根底にあるのがリスペクトです。つまり、一人一人、しっかりと尊重する姿勢、これが全ての土台ということになります。 では、なぜ指示待ちという状態が生まれてしまうのか。その背景をみていくと、静かな退職なんていう言葉もありますが、貢献意欲や成長意欲が低いということがあります。これは単純にスキルがないこと、やる気がないことの表面的な話だけではありません。例えば、学習性無力感という言葉があります。これは過去に自分のやったことが結果に結びつかなかった、そういう経験からどうせやっても無駄だったと諦めてしまう心理状態です。これが根にあると、なかなか自発性が生まれてきません。どうせ無駄だと思ってしまうから,指示されたこと以外はやろうと思えなくなってしまいます。それに加えてやはり信頼関係の欠如も大きいことがあります。上司や職場に対して安心感を持てないと、積極的に意見を言ったり何か新しいことに挑戦したりというのは難しいものがあります。 さらにモチベーションの問題があります。その仕事そのものに意味を見出せないことや、個人的な目標と結びついていないと感じてしまう場合、そしてスキルの不安、これも無視してはいけません。自信が持てないと成功体験が足りないことが行動をためらわせてしまいます。 信頼、意欲、自信、これらがとても大切になります。また、不公平な評価に対する不満や、あるいは組織の中での所属意識の希薄化、頑張っても報われないと感じてしまう,そしてここに自分の居場所がないなと感じてしまう。そうするとエネルギーがどうしても内向きになります。こういった要因が複合的に作用して指示待ちという状態を作り出してしまいます。 一筋縄ではいくものではありませんが、これらの複雑な状況を解きほぐすキーがあります。それが本書で繰り返し強調していくのが対話になります。対話は具体的にはどんな役割を果たすか、ただ話せばいいというものではありません。単なるおしゃべりや業務連絡、いわゆる報連相とは少し質が異なります。 対話の効果は大きく分けて4つほどあります。まず信頼関係の構築です。相手に寄り添って同じ目線で話を聞いて理解しようと努めます。その姿勢が安心感と信頼を生むことになります。これがすべての出発点であります。 次に要求の引き出し。これは一方的に指示するのではなく、問いかけを通じて相手の内面にある,考えや意欲そして意志を引き出す働きです。相手が「はい」や「いいえ」で終えてしまうような問いかけはクローズドクエッションと呼びます。これではなく相手に対してあなたはどう思う、どう考える、このような問いかけをしながら、どんなことを実現したいのか、相手の考えを引き出します。これをオープンクエスチョンと呼びます。これが相手の思考を深めて主体性を促すことになります。相手の中から答えを引き出すような問いかけが大事になります。 そして3つ目が,支援の提供です。対話を通じて相手が何に困っていてどんなサポートを必要としているのかこれを具体的に把握して、解決、支援や成長支援につなげていく。困っていることや課題を共有しやすい関係があってこそ適切な支援も可能になります。 そして最後に価値観の共有、仕事の意味や組織の目標を伝えて共感を促すことで、本人へのエンゲージメントを高めていく。このように、信頼関係を築いて、本音を引き出して、必要なサポートを提供して、仕事の意味を共有する。対話には、そのような多面的な力があります。 繰り返しになりますが、重要なことは、相手に共感して、相手の気持ちに寄り添うことです。それと、質問ではなく、発問により、相手の考えを引き出してあげること。これが、指示待ちからの脱却を促す質の高い対話となります。 共感と発問を意識した対話で、まずは信頼関係を築くこと、これが第一歩であります。その土台の上で、次はどうやって本人のモチベーション、つまり意志に火をつけるか、考えていきます。モチベーションの戦略も、いくつかあります。まずは中心になるのが目標設定の支援です。初めから高い意志を掲げて、やりたいことを求めるアプローチではありません。まずはやるべきことから目標を見つけてあげる。そしてできることを見つけてあげる。そして意志、やりたいことへと段階的にアプローチをしていきます。must can willへの段階的にアプローチしていきます。特にやりたいことが見つからない社員に対して有効であります。 まずは目の前のやるべきこと、マストを確実にこなして成功体験を積む中で、できること、CANを増やしていく。そのプロセスで自信がついて、結果的にやりたいことWillが見えてくるというものです。やりたいことが見えないから動けないではなく、まずできることを増やすことから始めると、これが実践的なアプローチになります。 本人の実現したい目標づくりを直接支援するというのはとても重要です。それには、現在を理解し、組織の目標と役割を理解して、個人で実現したいことを見つけて、キャリアビジョンを形成してあげる。そして、短期目標と長期目標を一緒に考えてあげる。対話を通じて、本人の価値観や目指す方向性を考えていきます。これらが目標設定において大事なことになります。 目標設定と並んで重要な戦略については、承認とロールモデルの存在も大きいです。日々の業務の中で頑張りやプロセス、どんな小さな成果でもいいので、具体的に発見して言葉で伝えてあげること。あなたのあの粘り強いデータ分析のおかげで、すごく助かったよみたいに、具体的なフィードバックが抽象的な褒め言葉よりもずっと響くことになります。具体的な行動を承認してあげるということです。 そして、身近な先輩や本人がこうなりたいと思えるような魅力的なロールモデルを示すことも、成長への意欲や将来への希望につながります。 さらに忘れてはいけないのが公平な評価制度です。結果だけではなく、努力やプロセスもしっかりと評価される。そういう透明性の高い仕組みが頑張りを支えます。最後に意味づけと所属意識です。自分の仕事がどう組織に貢献しているのかを伝えて、当事者意識を育むこと、それからここにいても,大丈夫だと感じられる心理的な安全性、気軽に会話が生まれる雰囲気づくり。時には、経営者自身の言葉でビジョンや思いを語ることの重要性も必要になります。モチベーションを引き出すためには、目標設定、承認、公平な評価、意味づけ、多角的なアプローチが必要になります。 意欲が高まっても、自分にはスキルがないから無理だと感じてしまうと、なかなか行動につながりません。そのスキル面の不安に対して、どのようにアプローチすれば良いか考えます。スキルの開発についても、やはり段階的なアプローチが有効であります。いきなり高度なスキルを求めるのではなく,ステップを踏むことが重要となります。まず1つ,できることをやりきる。今あるスキルを最大限活用することから始めます。次に,できることの幅を広げる。既存のスキルを応用して,少しずつ対応できる範囲を広げていきます。そして,できないスキルを訓練する。ここで初めて,新しいスキルの習得に挑戦するという流れになります。本人次第で、少しずつステップアップしていきます。その新しくできた習得したスキルを他の人に教えるということが大事になります。自分ができることをまず教えるようになること、そして新たに身につけたスキルも教えるようになるということもやるきにつながります。 自分の知識や経験が積極的に伝えていくことは重要性です。ここでも対話が必要になります。単にスキルを教えるのではなく、相手の勇気づけに関わり方が大切であります。なぜそのスキルが必要なのか身につけることで、どんな貢献ができるのか、感情や事実に属したストーリーで伝える。日々の努力への感謝や未来への期待。これを具体的に伝えることが、スキル習得への意欲を後押しすることになります。 ここまで、信頼関係、対話、目標設定、モチベーション向上、スキル支援、そのような要素を説明してきました。これらを統合して、実際に指示待ちからの行動変容を促すには、どのような手順で進めるのが効果的なのでしょうか。 これは、ビフォア、行動、イノベーションの4つのステップという具体的なフレームワークがあります。これは、行動につなげるための実践的な対話のフレームワークと言えます。まず、ステップ1で現状を客観視する。上司の思い込みだけでなく、しっかりと事実に基づいて、本人の強みや弱み、課題を冷静に把握します。ここでの対話が、後のステップの土台になります。 次にステップ2、会社の目標と部下の役割を確認して、組織全体の方向性の中で、本人がどんな役割を期待されているのかを改めて共有して認識を,すり合わせていきます。ここで仕事の意味づけにつながっていきます。組織と個人のベクトルを合わせるということです。 そしてステップ3、個人の目標や夢を確認する。これがまさにWillの引き出しにあたります。本人が仕事を通じてあるいはその先に何を望んでいるのか、どんなことを実現したいのか、これをじっくり対話を通じて共有します。 最後にステップ、4行動計画を策定する。これまでのステップを踏まえて、本人がこれならできそうだなとやってみたいと思えるような具体的なアクションプランを一方的に決めるのではなく、一緒に作っていく。最初は小さな成功体験を積めるようなスモールステップが良いです。一緒に計画を作る、そこがポイントになります。この4つのステップ全体を通じて根底に流れているのは、リスペクトする姿勢になります。一人一人の個性や価値観を尊重して可能性を信じて関わっていくことが、行動変容を促す上で最も重要なことになります。 指示待ちからの脱却は、特効薬があるわけではなく、本当に緻密なプロセスが必要になります。まず、リスペクトするという姿勢を土台にして、共感と発問を意識した対話で信頼関係を築く。その上で、本人の状況に合わせて、マスト、キャン、ウィルのステップも視野に入れながら目標を引き出して、具体的な承認や意味づけでモチベーションを高めて、同時に段階的なスキル支援で不安を取り除いて、本人が納得できる行動計画につなげていく。一つ一つのプロセスが有機的につながっていくことになります。このような関わり方については、特定の社員だけではなく、職場全体の活性化、一人一人が尊重されて自分の役割と成長を感じられる職場というのは、従業員のエンゲージメントを高めて、結果的に組織全体の持続的な成長をもたらします。
センスメイキング理論
251022 センスメイキング理論 センスメイキング理論について説明していきます。私たちが日々直面する少し捉えどころのないカオスの状況のような場面において自分が,なるほど、そういうことかと納得して進むべき道を見つけていきます。このセンスメイキングという考え方が変化の激しい今の時代に組織を動かすリーダーシップや私たち自身の意思決定に影響をしています。 私たちが普段世界をどのように認識しているか。私たちは情報をただ客観的に分析して理解をしていると 思いがちですが、実はそうではありません。むしろ目の前の出来事や情報に対して能動的にどういう意味だろうと問いかけながら自分なりにあるいは他の人との関係の中で意味を作り出している。このような主体的な意味づけのプロセス、それこそがセンスメイキングという考え方です。 この理論は、組織論学者カール・ワイクにより生み出されました。特に、組織という活動の中で、意味づけがいかに重要かということを強調しています。組織の行動や決定は、合理的な計算だけではなく、そこで働いている人たちが、その状況をどう解釈して納得できる物語を紡ぎ出せるかどうかに大きく関わっています。 単純に情報を処理するだけではなく、意味を生成していくということにもなります。その意味づけについて、具体的にはどのように行われているのか、このプロセスを説明していきます。 一つ目、レトロスペクティブ、つまり後付けで意味が作られるということです。大抵は理解をしてから行動すると思われがちですが、この直感に反することが起こっています。私たちは行動した後やあるいは出来事が一段落してからあれは一体何だったんだろうと振り返って過去の経験や断片的な情報これをつなぎ合わせて、初めて意味を理解するということが多いです。行動が先にあって意味は後からついていきます。未来を予測するときも過去を解釈することで現在をナビゲートしているということです。そういう側面が強いです。 アイデンティティとも深く関わってきます。自分は何者なのかこの組織は何を目指しているのかそのような自己認識が、どの情報にも注目してそれを意味付けることに影響を与えていきます。自分がどういう存在かによって見える世界やその解釈自体が変わってきてきます。 私たちが意味を作る上で手がかりに頼るという点がとても重要です。すべての情報を網羅的に分析するのではなく、目についたいくつかの断片的な情報を,手がかりとして、それを拾い上げて、そこから全体像を推測して、ストーリーを組み立てていきます。 例えば、ダイビングの例で話をします。初めてのダイビングで、最初は未知の海なんか怖いみたいな漠然とした認識があったとしても、インストラクターの丁寧な説明や、これが一つの手がかりとして、あるいは周りの経験者の人がすごくリラックスして楽しんでいる様子、これも手がかりになります。そういうのに触れることで、安全管理もしっかりしているし、実はこれはすごい!楽しい体験なんだ!と新しい意味づけが生まれてきます。これは限られた手がかりから状況に対する理解を作り上げていくというプロセスになります。 そして、その意味づけというのは、一人で完結するものではないということもあります。社会的ソーシャルです。私たちは、他の人との対話や周りの人、人の反応、あるいは共有される物語、そのようなものを通じて意味を確認したり、修正したり、あるいは時には全く新しい意味を作り上げたりすることもあります。個人の頭の中だけで生まれるのではなく、相互作用の中で形作られていくものになります。 そして、それらは継続的にプロセスの中で状況は常に変わっていき、新しい手がかりも出てきます。意味づけにおいても更新され続けていきます。そして、私たちは、環境にただ反応しているだけではなく、自らの行動によって環境そのものを形作りをしていきます。 例えば、あるチームがこのプロジェクトは、失敗するだろうという雰囲気に支配されているとします。その意味づけに基づいて行動する。そうすると、例えば努力を怠るとか、協力しないとか、そういうことをすれば、結果的に本当にプロジェクトは失敗してしまいます。逆に、これは挑戦だけどやり遂げられるはずだという意味づけをして行動すれば、成功の可能性が高まり、環境そのものが変わっていくかもしれません。 言動が意味を作って、意味が行動を導いて、それがまた環境を変えると、そのような循環があります。ある意味、自己成就予言みたいな、そういう側面もあるということです。 そして、妥当性の重視。正確さよりも大事なものがあります。私たちは、必ずしも100%客観的に正しい完璧な理解を求めているわけではないということです。むしろ手元にある手がかりから、少ない情報であっても考えていき、つじつまがあい、これなら進められそうと思っていけば、自分なりにもっともらしい納得感のあるストーリーを作り上げ、行動をしていきます。完璧な正しさよりも、腑に落ちるかどうか、納得が高まるかどうか、ということが大事です。 データや事実がとても重視される時代において、それでも納得感が得られることがとても重要になります。 もちろん、正確なことは必要ではありますが、決してすべてではありません。特に先が見えない複雑な状況においては、すべての情報を集めて完璧な分析をするということは不可能です。そういう時にこそ、人を動かすこと、完全に正しいかはわからないけれども、これでやってみようと思えるような共有された納得感のあるストーリーが必要になります。これが時として集団的な思い込みを生む危険性ももちろんはらんではいますが、同時に不確実性の中で行動を起こすための何らかの原動力にもなります。後付けでも手がかりをもとに社会的にそして納得感を重視してこれらの特徴が組み合わさって私たちの意味付けというストーリーが成り立ちます。 では、この考え方をもとに、組織を率いるリーダーにとってどんな意味を持つのか、「あのリーダーは意味の建築家だ」みたいな言葉もありますが、リーダーのとても重要な役割の一つに、変化や危機や曖昧な状況に直面した時に、組織のメンバーが今何が起こっているのだろうとか、私たちはどう進むべきなんだろうという理解をするための意味づけを提示して、方向づけすることが大切です。 単なる指揮命令系統というだけではなく、意味の方向づけが大事です。例えば、予期せぬ競合が出てきて、市場が混乱した時、リーダーが「これは脅威だ」「守りに入れ」とだけ発信したら、組織活動は萎縮してしまうかもしれません。しかし、同じ状況でも、これは我々の強みを見直して、新しい価値を創造するいい機会なんだと、具体的な根拠とかビジョンと一緒に語りかければ、メンバーの意識は変わって、混乱がエネルギーに創出の転換になり、活性化につながる可能性があります。 そのリーダーが提示する意味は絶対的に正しいものである必要はありません。妥当性重視の話につながります。もちろん、現実離れしたただの楽観論ではいけませんが、リーダーは必ずしも完璧な未来を予測できるわけではありません。重要なのは不確実な中でも集められる手がかりをもとにメンバーがなるほどそのストーリーなら信じられるとか、それだったら自分も貢献できそうだとか、納得できるような一貫性のあるもっともらしいストーリーを語れるかどうかが重要です。 ストーリーに沿った行動を自ら示せるかどうか、とても大事です。これは、リーダーシップの本質に関わる能力にもなります。センスメイキングが社会的なプロセスであるということを考えると、リーダーが一方的に意味を与えるだけでは、不十分でもあります。優れたリーダーは、トップダウンで意味を押し付けるのではなく、メンバーとの対話を通じて、多様な視点や経験、重要な手がかりになるので、それを引き出しながら、共に納得できる意味を共創して、共に作り上げていこうとします。例えば、ワークショップを開いたり、メンバー自身の言葉で経験やアイデアを語ってもらったり、こういうプロセスを通じて、新しい意味づけが組織全体に浸透しやすくなります。 共に作り上げるということは、最近注目されているサーバントリーダーシップやアダプティブリーダーシップで示すようなメンバーの主体性や学習を,重視するという考え方にも通じます。強いビジョンを掲げて組織を引っ張っていくトランスフォーメーショナルリーダーシップもそのビジョンがメンバーにとって意味のある物語として受け入れられないと力を発揮できないことになります。 リーダーが語るビジョンが、メンバーのアイデンティティや価値観と共鳴して、未来を実現したいという納得感となり、それを生み出すからこそ、人々は動かされる。だからセンスメイキングの視点というのはいろいろなリーダーシップの根底にある意味の力を浮き彫りにしていきます。リーダーシップとセンスメイキングは深く結びついていきます。 具体的に、組織変革をしたいとき、新しい方向へ進みたいという場面で、この理論を活かしていきます。変革というのは、単にルールや制度を変えるだけではなく、そこで働く人、常識的な考え、当たり前みたいな根深い意味づけを変えるプロセスにあります。特に変化への抵抗が強い場合は、その抵抗の根源にある意味づけを変えなければ、前に進めません。抵抗の背景にある意味付けを探るには、まず、現状の意味付けを丁寧に把握することから始めます。なぜ変化が必要だと感じられないのか、今のやり方にどんな意味や価値を見出しているのか、何を失うことを恐れているのか、あるいは、もっと日々の対話を通じて現状維持の根っこにあるある意味の世界をまず理解します。 次に、変革の必要性や目指す方向について、新しい意味づけを促すような手がかりを提供していき、市場の変化や顧客の声、成功事例、そういう客観的な情報を用いて、我々にとって何を意味するのか、そういう物語を,提示していきます。それを一方的に伝えるのではなく、共に価値を創る、競争するプロセスがとても重要になります。新しいビジョンや変革の意義について、メンバー自身が考えて、語り合って、自分たちの言葉で意味を作り出していく。そういう場を設けます。普段から対話を通じて変革によって実現したい未来を具体的にイメージして共有するのも効果的です。 さらに行動を促し、新しい意味づけに基づいて、まずは小さくてもいいから具体的な行動を試してみて、例えば新しいツールをちょっと使ってみるとか、新しいプロセスを試行してみるとか、その行動がもしポジティブな結果、つまり新しい手がかりを生めば、それがまた新しい意味づけを強化して、さらに次の行動へつながっていきます。語り掛け、行動への意味づけ、行動の実践の良い循環を生み出すのが狙いです。小さな成功体験を積み重ねて、それを組織全体で共有することで、変革への確信を高めていきます。 例えば、製造業のデジタル化の事例は、まさにプロセスの意味付けを表しています。現場のベテラン層が、当初はデジタル技術は現場を知らないものの押し付けみたいな感じでいた。これが現状の意味付けです。しかし、リーダーが一方的に導入を進めるのではなく、現場の声に耳を傾けて「デジタル化」というのは、長年培ってきた知恵や経験を時代に合わせてさらに生かすための「武器」という理解を持って、そういう新しい意味づけを体験を通じて共創していき、新しい価値を作り上げていきます。その結果、自分たちの仕事をより良くするための道具というふうに捉えられ、現場が主体的にデジタルツールを活用し始めます。これは,競争とその行動による意味の変化が見事に組み合わさった例であります。 働き方改革により、長時間労働イコール美徳みたいな古い意味づけに対して、効率的な働き方こそが顧客価値と従業員の幸福を最大化にするという新しい意味づけで、上書きしたことになります。 これらの事例からいえることは、センスメイキングを活用した組織変革には、共感的なリーダーシップつまり、メンバーの視点や感情を理解しようとする姿勢が,まず不可欠だということです。そして、抽象的な理念だけではなく、具体的な物語として変革の意義を語ります。さらに小さな成功を積み重ねて、それを共有して変革へのもっともらしいポテンシャルを高めて、そして何よりも一度の説明では終わらせずに継続的な対話を通じて意味を更新し続ける、そういう粘り強さが必要になります。 センスメイキング理論を通じて、私たちが無意識のうちにやっている意味づけという営みが、いかに能動的で、社会的で、そして組織やリーダーシップのあり方と密接に結びついているのか、改めて実感できます。完璧な情報や分析を求めるのも大事ではありますが、それ以上に私たちを動かしているのは何かと思える納得感や共有されたストーリーであります。 そして重要なのは、このセンスメイキングは、組織やリーダーだけの特別な話ではないということです。日々、ニュースを見たり、人と話したり、仕事を進めたりする中で、絶えず行っていることでもあります。次から次へと入ってくる情報や、目の前で起こる出来事に対して、これはどういうことなのだろうか自分にとってどんな意味があるのだろうか解釈して、自分なりの理解を形作っていきます。そのプロセスそのものがセンスメイキングとなります。私たち一人一人の日常の中にこの理論は生きています。 最近、あなたの周りでこれは一体どう捉えていいのだろうか少し戸惑ったり、なんか先が見えないなと感じてしまったり、思い出してみてください。その時、あなたはその状況をどのように理解しようとしましたか。どんな情報や誰かの言葉、あるいは過去の経験などで手がかりにしましたか。そしてその結果、たどり着いた意味づけは、客観的な正確さを目指したものであったものか。それとも自分なりに腑に落ちること、つまり納得感を重視したものであったものか。もし曖昧な状況に遭遇したときに、センスメイキングの視点で、自分は今、後から意味づけしようとしているとか、どんな手がかりに注目しているだろうか、あるいは無意識にもっともらしいストーリーを探しているのかもしれない、みたいなことを少し意識してみるだけで、状況の捉え方や次に取るべき行動が、これまでとは違って見えてくることでしょう。
成果が上がらない人の思考パターン
251018 成果が上がらない人の思考パターン 成果が上がらない人の思考パターンにふれて、収入が伸び悩む人とそうでない人の考え方の違いと、その核心にある構造について説明していきます。仕事への取り組み方一つで、将来的な収入に影響します。仕事に対する姿勢や動機づけを軸に、いくつかの思考パターンを対比させて、その因果関係を説明していきます。特に、プラスの仕事をするか、仕事に何を求めるか、報酬と行動の関係性、仕事の根幹にある動機づけ。このような要素が収入の伸び、あるいは停滞に結びついていくという見解であります。 一つ目は、これは仕事の範囲に対する姿勢です。思考貧乏または思考不全とも言えます。自分に与えられた仕事の範囲で、できる限りそれを超えないようにと、仕事をしないように立ち回る人、このように定義します。この思考貧乏、または思考不全の状態にある人というのは、常にどうすれば余計な仕事を引き受けずに済むかと考えてしまいます。そして、どうすれば自分の責任の範囲を限定できるかのようなことを考えて行動する傾向があります。与えられたタスクをこなすというのは、前提でありますが、そこから一歩踏み出すことに対して抵抗感が強く出てしまいます。 この思考貧乏的な立ち回りというのが、やがて個人の成長や収入の構造を妨げることになってしまいます。仕事を与えられた範囲のことしかやらない人材になってしまうと、組織全体から見ると代替えが可能、つまり替えが利く存在になりやすいという点があります。常に自分の器を守ろうとする姿勢というのは、結局、組織への貢献度を自分で限定をしてしまいます。その結果として、この人でないとダメだという存在にはなりにくくなってしまいます。 これに対して、まず与えられた仕事を迅速かつ的確に終わらせた上で、他に何か自分が貢献できることはないのか、もっと責任のある仕事を任せてほしいみたいに自分から進んで、より大きな責任や役割を求めていく。そういう姿勢があります。つまり、その自分の役割を固定的には捉えないで、常に組織全体の目標達成にどう貢献できるかという視点を持つことが大事になります。その積極性がより多くの責任のある仕事を引き寄せて、それをこなすことでスキルや経験値が上がり、結果的に組織内での評価、ひいては昇進や昇給につながっていく、こういう構造となります。理想の自分をどう持てるかが大事にもなります。これも積極的な姿勢や自己成長への意欲、そこにつながります。 自分の役割を職務定義書みたいなものに書かれた範囲だけをこなすだけでなく、常に組織全体のニーズを考えて、半歩先んじて行動を起こせる人材、そういう人こそが、結果的に個人の成長と報酬の両方を手にすることができるようになります。 二つ目は、働く動機と自己実現に関するものです。収入が上がらない人の思考として、仕事は生活のためと割り切り、給料分だけ働けば十分みたいな考え方をしてしまいます。そういう考え方は、仕事はあくまでもその経済的な安定を得るための手段であり、自己実現や生きがいというのは、仕事以外のプライベートな時間で追求するものだという価値観があったりします。これもある意味では、すごく現実的な捉え方とも言えることにもなりますが。仕事イコール生活の糧という考えとなってしまうものとは、全く対照的なものが、仕事即人生という仕事を通じて自己実現を果たすという価値観をかなり強く持っていることです。仕事そのものが自己表現の場であり、挑戦でもあります。そこで何かを成し遂げること自体に深い喜びや意義を獲得する、そういう生き方です。 遊びの時間も多少は犠牲になるくらいに仕事に打ち込んだ時期もあります。何かを得るためには何かを差し出さなければなりません。それが、いわゆる。代価の先払いという考えにつながっていきます。代価の先払いは、大きな成功や自己実現というものを得るためには、多少なプライベートの時間も削ってでも代価を先払ったんだと、そういう解釈です。仕事へのコミットメントの度合いが根本的に違うということです。一方では、仕事は生活を支えるための必要最低限のことと捉えて、プライベートの充実を優先する。その一方で、仕事そのものに情熱を注ぎ込んで、自己成長や社会への貢献を通じて、人生の充実感を得ようとする。前者は、仕事そのものが、自分の願望のど真ん中にない状態。後者は、まさに仕事こそが願望のど真ん中にある状態であります。この動機の違いが、結果的に仕事の質や結果、達成、長期的な収入の格差につながっていくということになります。 どっちが良いとか悪いとか、そういう価値判断をしているわけではないのですが、どちらのスタンスが成功や収入構造につながりやすいかという、そのような観点からの分析となります。もちろん、プライベートも大事にしないといけないのですが、仕事を通じて大きな成果と高い報酬を目指すために、それ相応のコミットメント、つまり時間やエネルギーの投入が必要になってきます。 三つ目は、行動と報酬の関係性。これは報酬が保証されない限り、行動に移さないタイプと言えます。このような人たちは、損得勘定を第一に行動すると捉えてしまいます。この考え方がどうしても収入の伸び悩みにつながります。この対比として、先義公利の考え方があります。これはまず義が先に来て、つまり人として正しいこと、価値ある貢献を先に行えば、義つまり利益や報酬は、後から自然とついてくるという考えです。東洋学的な思想であります。この考え方を、自分のビジネスやキャリア形成に当てはめて、成功の本質は代価の先払いにあるということになります。つまり、将来的なリターンが不確実であっても価値があると信じることに対して、先に自分の時間や労力、知恵といった代価を投資できるかどうか、これが決定的に重要となります。目先の損得勘定にとらわれず、長期的な視点で価値提供を優先できるかどうか、ある種のリスクテイクの姿勢が問われるということになります。この代価の先払いを実践できる人には、積極的な姿勢になり、常に期待される意欲あり、を与えられ、半歩先を行くような仕事をするような人に自然と多くの仕事やチャンスが集まってきます。なぜなら、そういう行動を取れる人は周りからの信頼を生みますし、この人に任せれば期待以上のことをしてくれるだろうという評価につながります。 逆に、これだけの報酬が保証だったらやります、またはやりませんというスタンスの人は、そういう成長の機会や、より大きな責任を伴うような仕事を自分から遠ざけてしまうことになります。やがて、代価の先払いができるタイプにどんどん仕事を取られてしまいます。保障がないことに対するそのリスク許容度の違いが、長期的に見て、経験やスキルの蓄積、それから人脈形成みたいな面で大きな差を生み出す可能性があるということです。 四つ目は、仕事の質、その根源にある動機づけについてです。収入が上がらない人の仕事ぶりを指して、やっつけ仕事や深みのない仕事みたいな言葉を使っています。こうした仕事になってしまう背景として、そもそも知恵がなかったり、言われたこと以上の提案が出てこないみたいな能力的な側面。それだけではありません。単なるスキルや経験の問題だけではなく、根本的な動機の違いにあります。決定的な違いとしては、相手に喜んでもらいたいという純粋な動機があるかどうか、その点なんです。この貢献意欲や利他の心を強い人は、いい加減な仕事はできなくなり、期待以上のものを提供したいというプロフェッショナルとしてのプライドを持つようになります。仕事は単なるお金のためだけじゃなく、仕事そのものの質を追求すること自体が目的化していくという考えになります。 相手の満足や喜び、自分自身の達成感、喜びとして感じられるかどうか。これが仕事の質を左右する根本的な要素となり、願望のど真ん中に相手を喜ばせることが入っているかどうか。この動機が存在すると、仕事は単なる労働の対価としての糧を得るための手段だけではなく、仕事そのものが含まれる精神的な喜びや報酬を発見するプロセスへと消化していく。だからこそ、単なる作業としてやっつけ仕事ではなく、どうすればもっと相手に価値を提供できるのか、どうすればもっと喜んでもらえるのかという観点から、自発的に知恵を絞って具体的な提案を生み出すことができるようになります。このような内発的な動機が質の高い仕事、そして結果として評価や報酬の向上につながる、そういう好循環を生み出していきます。 以上、4つの対比の説明となりますが、全体を通してとても明確で一貫したメッセージがあります。受け身で自分の殻を守って、目先の損得勘定や保証を重視する思考。これに対して、能動的で常にプラスアルファの貢献を目指して、自己実現を仕事に求めて、代価の先払いを嫌からずに相手への貢献、意欲を強く持つ思考は、この後者の思考こそが、持続的な成果をあげることには不可欠になります。
育成を任せてはいけない人の特徴
251017 育成を任せてはいけない人の特徴 あなたのチームや組織の中で、この人に後輩や部下の育成を任せて大丈夫かなという人物。その見抜き方について考えていきます。リーダーシップやマネジメントで陥りやすい罠や注意点を説明していきます。この分析をつうじて、人を見る目、特にその人を育てる立場の人を見極める解像度を少しでも上げていくことになります。自分自身のマネジメントスタイルを振り返り、きっかけになります。多くの組織が今直面するであろう短期的な成果と、それから長期的な人材育成について、このジレンマが発生します。マネジメントの目的について整理し、その本質を見失いがちになるマネジメントとその構造について追及していきます。 目先の目標達成を追い求めるあまりに、組織の根幹であるはずの人、これを育成していく、育てる視点がいとも簡単に抜け落ちてしまうというメカニズムになります。経営マネジメントにおいて、予算達成はもちろん大事ではありますが、でも、それをどうやって達成するのか、そのプロセスこそが問われるべきであります。 マネジメントの本来の意味合いというのは、人を介して仕事を行う技術です。つまり、リーダー自身の力だけで成果を出すのではなく、メンバー一人一人が持っている能力を引き出して、彼らが目標達成できるように支援するので、結果としてチーム全体の、そして組織全体の目標達成につなげていく。これが理想であり、持続可能な組織の姿と言えます。現実的には、自分の目標達成や、あるいは自分の評価のためだったら手段を選ばない、そういうタイプの人も中にはいます。そうなると、メンバーはまるでコマ扱いみたいに目標達成のためだけの存在として扱われてしまいます。これはメンバーにとってかなりしんどい状況となります。そして非常にこれは危険な兆候です。短期的にはそのリーダーは勝ったように見えるかもしれません。数字は達成されて評価もされるかもしれない。しかし、その裏側で何が起きているかというと、メンバーは成功体験を得られないし、スキルも伸び悩むし、ただ疲弊していく状況になります。これは組織全体の活力を確実に削られていきます。表面的な勝利の代償というのが見えないところで、組織の将来を蝕んでいく。 可能性があるわけです。その手段を選ばないやり方としては、外的にコントロールしようとする手法であげます。批判する、責める、文句を言う、ガミガミ指摘する、脅す、罰を与える、目先の褒美で釣る。この外的コントロールという概念自体を少し整理します。相手の行動を本人の内側から湧き出る意欲や納得感ではなく、外からの圧力、つまりアメとムチです。バツとか報酬によってコントロールしようとするアプローチ全般を指します。リストにあるような行為は、その典型的と言えます。内発的な動機ではなく、外からの力で動かそうとすることになります。これが厄介なのは、短期的には効果があるように見えてしまうということです。プレッシャーをかければ、一時的に行動は変わるかもしれません。しかし、それはあくまでも表面的なものに過ぎない。その裏では、メンバーの自発性や主体性、そして何よりもリーダーに対する信頼感、 これが根本から破壊されていく可能性があります。恐怖や義務感で動く組織というのは、創造性や自立的な成長とは無縁になってしまいます。 世間を噂されるような企業の不祥事も突き詰めていくと、こういう本質を見失った勝利至上主義や短期的な利益至上主義が根本にあるケースが多いということになります。本来、教育で目指すべき人格形成の本質よりも、目先の試験の点数や試合の勝ち負けにこだわってしまいます。勝てば官軍とか、利益こそ正義みたいな考え方で、組織の隅々までにこう浸透してしまう。そうなると、目標達成のためなら、少しくらいルールを曲げても良いとか、人を傷つけても構わないといった、ちょっと歪んだ正義感みたいなものが生まれる土壌になりかねません。本来、組織を支える基盤であるべき人や信頼関係といった価値が二の次にされてしまいます。これは組織が持続的に成長していく上で非常に大きなリスク要因となってしまいます。こういう手段を選ばないタイプのリーダーは、たとえ自分のチーム、メンバーが目標を未達だとしても、他の部署から応援を引っ張ってきたりとか、外部から大きな案件を獲得したりして、帳尻を合わせるのがとてもうまい振る舞いをします。ここが評価の難しいポイントでありますが、同時にその本質を見返る上でとても重要な点でもあります。 表面的には数字は出ている、目標は達成しているように見えて、一見するとできるリーダーだと評価されてしまうかもしれません。しかし、その内面を、中身をよく見ていくと、チームメンバーは誰一人として成長していないとか、達成感を味わえていないというケースがあるわけです。その数字という結果だけを見ていては、そのリーダーが本当に実力を高めていたのか、それとも、ただつじつま合わせが上手いだけなのか、見誤ってしまう可能性があるということになります。メンバーは、自分たちの力で目標を達成したという実感を得られないし、成功体験を積む機会も奪われてしまいます。これは短期的な数字達成の裏で、組織の未来を担う人材が育っていないという、非常に深刻な事態を意味しています。長期的に見れば、これは組織力の確実な低下につながります。 見せかけの成功に騙されてはいけないという警鐘でもあります。 一方で、本当に育成力のある良い指導者というのはどういうアプローチをとるかというと、たとえ厳しさがあったとしても、メンバー一人一人の状況や課題に真剣に向き合って、どうすれば目標達成できるのか。その具体的な方法やプロセスを一緒に考え抜いて、最後まで諦めずに粘り強く導いていきます。優れた指導者は、外的コントロールのような、ある意味安易な手法に頼ることはありません。なぜなら、彼らはマネジメントの本質というのをしっかりと理解しているからです。つまり、メンバー一人一人が持っている可能性を信じて、彼らの成長を促すことこそが、結果としてチーム全体の持続的な成長につながるということ。この人を育てるという視点、そしてそれを実践する粘り強さ、これを持っているかどうかが、育成を任せられるに値する人物かどうかの決定的な分かれ目になると思います。 さらに、勝ち負けの思考に偏りすぎている人も要注意であります。物事を捉える視野の狭さや時間軸の短さ、目の前の勝敗とか、自分の評価、短期的な成果、これに意識が向きすぎるあまり、より長期的で本質的な視点、それから組織全体を俯瞰するような客観的な視点が欠けている状態と言えます。例えば、自分がいる間だけ良ければいいとか、自分のチームさえ勝てれば他はどうでもいいみたいな、そういう発想につながりやすいです。自分の勝利が最優先で、組織全体の長期的な利益に、もしかしたら反するかもしれないことに気づかない。あるいは気にしないということです。 理念や経営という考え方と合わせて考えます。本当に強い組織というのは、特定のカリスマリーダーの手腕だけに依存しているわけではなく、その組織が大切にしている理念や価値観が深く浸透していて、それがメンバーの行動指針になっています。だから、たとえリーダーが変わったとしても、組織の根幹は揺るがないし、理念に基づいて自律的に判断できる、次のリーダーが自然と育ってくる、そういう土壌があるわけです。つまり、個人の力で合意に引っ張っていくような組織というのは、その人がいなくなると脆いかもしれないけど、理念や価値観がしっかりと共有されている組織は持続性があり、この視点というのは、組織のトップ、つまり経営層の姿勢にも直結していきます。また、トップが利益至上主義、短期的な成果主義に偏っていて、とにかく結果を出せというメッセージばかり発信していたらどうなるか。現場では疲弊する社員が増え、離職が相次ぎ、メンタルヘルスの問題が深刻化していくかもしれません。しかし、トップは利益が出ている限り、そうした現場の悲鳴に本気で向き合おうとしない、あるいは問題の本質から目をそらしてしまうかもしれない。それは組織として末期的な状況になりかねません。 逆に社員一人一人の幸福や成長を本気で願っているリーダーというのは、現場で起きている問題から目を背けないわけです。なぜ離職が続くのか、なぜメンタル不調者が出るのか、その根本原因を探って真摯に向き合って改善しようと努力する、そうしたその姿勢というのは必ず社員に伝わります。だからこそ数字さえ達成できれば、プロセスや人はどうでもいいという考え方は結局のところ本質的ではなく組織の長期的に蝕み、いつか必ず限界が訪れてきてしまいます。 スペシャリストは自分のパフォーマンスに焦点を当てがちになります。これは、優秀なプレイヤーが必ずしも良い指導者になるとは限らないということです。自分がプレイヤーとして高い成果を出す能力と、他者を通じて、あるいはチームとして成果を出して、さらにメンバーを育成していくという能力は、全く別のスキルが求められるようになります。もちろん、プレイヤーとして経験や、専門知識というのは指導の土台にはなりますけど、それだけでは不十分であり、むしろ過去の成功体験が逆に指導の足かせになることすらあります。自分ができたんだからお前もできるはずだとか、なんでこんな簡単なことがわからないんだみたいなそういう発想に陥りやすいということです。自分のやり方や価値観を一方的に押し付けてしまったり、メンバーがつまずいているポイントに共感できなかったりします。 経営者やリーダーとして真に成功するためには、単に自分の専門分野のスペシャリストだけではなく、人を育てる、事業を育てるという、そういう領域のスペシャリストになる必要があります。育成のプロとしての視点が、スキルが必要になってきます。個々のメンバーの特性を見抜いて、それぞれに合った関わり方や指導方法を選択して、彼らの内発的な動機づけを引き出して、長期的な視点で成長を支援していく、そういう能力です。自分のパフォーマンスを最大化することから、チームやメンバーのパフォーマンスを最大化することへ意識とスキルの転換が求められます。 後輩や部下の育成を任せるべきでない人物の特徴として、重要なポイントを浮かびあげてきました。1つ目は、目的なら手段を選ばず、メンバーを駒のように扱う傾向があります。2つ目は、相手を外からの力でコントロールしようとする、いわゆる外的コントロールです。例えば、批判、脅し、アメとムチなど上がります。3つ目は、短期的な成果ばかりを追い求めて人の成長という長期的な視点が欠けてしまいます。4つ目は、自分の勝ち負けに固執して組織全体の利益や他者への配慮が足りない。5つ目は、プレイヤーとしては優秀かもしれないけれども、自身のパフォーマンスにしか関心がなく、人を育てるという役割の意識やスキルが不足してしまいます。 これらの点は、誰かに育成を任せるかどうか判断する際、あるいは自分自身のリーダーシップを客観的に見つめ直す上で、非常に重要なチェック項目になります。単なる個人の性格や能力の問題として片付けるのではなく、こうしたリーダーシップが組織内で容認されたり、あるいはその短期的な成果によって評価されたりするような状況というのは、組織全体の健全性や持続可能性を脅かす非常に深刻な問題になります。人を育てられない、あるいは人を潰してしまうような組織に明るい未来がないと言っても過言ではありません。より大きな視点で見れば、日々の業務や短期的な目標達成のプレッシャーがいかに強くても、その中でいかに人を育てるかという、より本質的で長期的な視点を持ち続けて実践できるか、これこそが変化の激しい現代において、リーダーに求められる最も重要な資質の一つと言えます。