ブレークスルー戦略

251105 ブレークスルー戦略、揺るぎない成長への意思

経営の原則は、大局眼、小局着手である。ここ数年の経営環境を振り返る。コロナウイルスの収束宣言が出された2023年から翌年の2024年にかけて、日本経済は失われた30年といわれるデフレ経済の長いトンネルから抜け出して、インフレ経済への移行と、新しい30年サイクルへ向けての大きく舵を切っている。

この間、企業は脱コロナの掛け声のもとで、経営のスタイル自体を見直し、コロナ禍で失った顧客を取り戻した。賃金を上げながらも、コストアップを価格転嫁で吸収し、そして円安の後押しもあって、上場企業の業績は過去最高益を連続して更新している。

2023年度は、新しい成長に向けて、自己革新能力を発揮せよということで、新バリューチェーン戦略、すなわちコロナ後における新しいバリューチェーンの変革を提言した。2024年度は、ジャパンクオリティで世界をリードしていこうという、クオリティリーダーシップ戦略、すなわち日本企業の卓越した価値をブランディングしていこうという提案である。2025年度は、湧き上がる未開のマーケットに積極果敢に踏み込んでいこう、こんな意味を込め、フロンティア戦略を提言した。

そして、今年、2025年、トランプ2.0で幕を開けた。トランプ関税の発動で、保護主義へと大きく舵を切って、為替変動だとか、WTOの機能不全、そしてG7の影響力の低下、地政学的なリスクというのも招いた結果、世界の不確実性はコロナショックを上回る水準となる。

トランプの一言、あるいはつぶやきで世界が動く。そんな不確実性の高い経営環境と言える。こういった経営環境下にあるにもかかわらず、各国の柔軟な対応によって、インフレの緩やかな低下、AI技術の活用と市場の成長、グローバルサウスの拡大、そしてグローバルサプライチェーンの再構築といったように、多極化、多角化で対応しながら、全世界は底堅く、緩やかなプラス成長を維持している。

グラフでもう一ついただきたいのが、この赤色の点線である。これは、1990年から、現在までの不確実性指数のアベレージである。このアベレージがリーマンショック以降、ほぼ平均値を上回っている。すなわち、不確実性が常態化している、常に不確実な時代である、こんなふうにも言えるのである。

日本は円安とこの物価上昇の後押しもあって、名目GDPは、昨年には600兆円の大台を突破した。この600兆円というのは、2015年、当時、安倍首相が掲げたアベノミクス、新3本の矢の第一の矢として、目標設定をされたものなのである。それからもう10年経っている。300兆円から500兆円までは10年を要していなかったが、600兆円の突破には30年以上の長い年月をかけた。

では、物価はどうかというと、原材料の高騰といったコストプッシュが引き起こした、過度なインフレの状態から、需要喚起型のデマンドプルへとインフレ率も低下し、適度なインフレへと移行しつつある。

また、今年の春闘では、34年ぶりの高水準になった。そして、実質GDPも5四半期連続のプラス成長回復を維持している。新政権も発足し、株価も5万円を突破した。不確実性を乗り越えるこの強い経済への政策に期待が高まっている。

一方では、この労働力人口の減少による人手不足が常態化し、さらに加速していく。今後、金利ある世界から金利が上がる世界へ加速していく。そして消滅都市が加速していく。日本経済は、コロナ後のすでに起こっている未来への大転換途上にある。このように言えるのであり、不確実性というのが常態化している中、そして、大転換の途上にある経済環境において、私たち経営者の価値観として求められるのが、揺るぎない成長への意思である。

今、経営者は揺るぎない意思を持って成長していく覚悟が求められている。ユニクロの柳井会長は、こんなふうに言っている。「成長なくば、死も同然。」非常にインパクトのある言葉ではある。この先が見えないから、立ち止まって様子見をするだとか、目先の対応に終始するといった現状維持の経営というのは、衰退を意味する。企業経営というのは、成長するか、衰退するかの二択である。不確実な時代だからこそ、長期的な視点を持ちながら、未来を切り開くための、確固たる成長への意思、これが必要なのだと考えている。

そして、この経済の大転換途上においては、これまでとの連続性を持った成長というのを思考するのではなくて、非連続な成長に向けた戦略思考へのマインドセットの大転換、これが求められる。したがって、企業が持続的な成長を実現するには、これまでの常識を超えるレベルでの非連続な変化によるブレークスルーが不可欠である。このブレークスルーの鍵は、新しい経営技術を取り入れる勇気と、自社らしさを進化させることへの戦略的実装にある。そのために、どのようにブレークスルーを起こすのか。その実現に向けて、何へ投資して、誰と組むのか。そして、どこに突破口を生み出すのか。この3つの問いと向き合っていただき、経営の中核そのものを変える決断と実行という経営者リーダーシップを発揮していく。そして、持続的成長に向けて、非連続の変化を起こしていく。

Leave a comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *