コーポレートウェルビーイング

251111 コーポレートウェルビーイング

従業員の幸福感と企業の成長をどのように結びつけていくのか考えていきます。コーポレートウェルビーイングという言葉について、なぜ今の時代にこれほど注目されているのか、それが会社やそこで働く社員にとってどのような意味を持つのか、説明していきます。これは単なる健康診断や福利厚生の話ではありません。もう少し本質的で、未来を見据えた戦略の話になります。

コーポレートウェルビーイングは、体の健康や心の元気だけを意味するものではありません。もっと広い概念があります。もちろん、身体的な健康や、精神的な健康(精神病にならないための予防的な健康)は、土台として非常に重要です。しかし、コーポレートウェルビーイングは、それに加えて、日々の仕事や生活における心の豊かさ、つまりポジティブな感情ややりがい、自己実現といった幸福感、これらがウェルビーイングに含まれます。

重要なのは、これが個人の問題にとどまらないということです。一人一人の従業員が健康で幸せであること、これが大事になります。それが集まって組織全体として活気があって、お互いを尊重し、心理的に安全で共通の目標に向かって前向きに進んでいける状態を指します。つまり、会社組織全体が健康で幸福度の高い状態であり、これこそが真のコーポレートウェルビーイングであると考えます。個人の総和以上のものがそこにあるという考え方に基づいています。

個人レベルの話と、組織全体のカルチャーや雰囲気の話、その両方が組み合わさっています。一人一人の人が元気であっても、組織がギスギスしていたら、それはウェルビーイングとは言えません。会社の制度は立派でも、個々の従業員が燃え尽きていたり、疎外感を感じていたりすれば、それも問題であります。この両輪がうまく回って初めて、コーポレートウェルビーイングが実現すると言えます。

この考え方が今注目されている背景には、時代の変化もかなり大きく影響しています。以前のように、とにかく経済成長や物質的な豊かさを追求するだけでは、何か満たされないものを感じる人が増えているということがあります。経済が成長して、基本的な生活が満たされるようになると、人々は次なる価値、つまり精神的な充足感や自己実現、社会とのつながり、そのようなものを求めるようになります。

働き方においても、単純にお金を稼ぐ手段としてだけではなく、自己成長や社会貢献の場として意味合いを重視する人が増えています。グローバルな視点で見ても、SDGs(持続可能な開発目標)の中で、「働きがいも経済成長も」や「すべての人に健康と福祉を」といった目標が掲げられているように、人間の幸福や健康を経済活動の中心に捉えようという大きな流れがあります。企業も社会の一員として、こうした価値観を無視できなくなっているというわけです。

そしてもう一つ、現代社会特有のストレス要因の増加があります。変化の速さ、情報過多、先行き不透明感といったメンタルヘルスに影響を与える要因は本当にたくさんあります。こうした中で、企業が従業員の心身の健康を支えることの重要性が、かつてないほど高まっていると言えます。

企業側から見て、このコーポレートウェルビーイングに取り組む具体的なメリットとして、従業員の健康が大事であり、この考え方が単なる良いことではなく、戦略であるということが挙げられます。最も直接的なのは、やはり生産性や創造性への影響です。心身ともに健康で仕事にやりがいを感じている従業員は、集中力も高まります。新しいアイデアも生まれやすくなります。

実際に様々な調査で、従業員の幸福度と企業の業績との間には、正の相関関係があることが示されています。例えば、ある調査では、従業員のエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)が高い企業では、そうでない企業に比べて収益性が20%で、生産性が17%高いというような結果も出ています。単純に社員が元気だと雰囲気が良くなるという話ではありません。

人材の獲得と維持、この面でも大きなメリットがあります。現代の特に若い世代は、給与や待遇だけではなく、企業の価値観や働きがい、心身の健康への配慮といった点を重視して、就職先を選ぶ傾向があります。ですから、ウェルビーイングへの取り組みを積極的に発信している企業は、優秀な人材を惹きつけやすくなりますし、既存の従業員の定着率を高める効果も期待できます。離職率が下がれば、当然採用や再教育にかかるコストも削減できます。

加えて、社会的な評価、いわゆる企業価値の向上にもつながります。投資家もESG投資(環境、社会、ガバナンスを重視する投資)の流れの中で、企業が従業員をどのように扱っているか、その健康や幸福にどれだけ配慮しているか、これを重要な判断材料の一つとして見るようになっています。つまり、ウェルビーイングへの取り組みというのは、社会からの信頼を得て、長期的な企業価値を高める上で不可欠な要素となりつつあります。

従業員の幸せを考えることが、単なるコストセンターではなく、生産性向上、人材確保、企業価値向上といった具体的なリターンを生む未来への投資になるというわけです。これは経営層にとってとても重要な視点です。まさに従業員の幸福を起点に企業の経済価値と社会価値の向上を両立させる未来志向の経営戦略です。この言葉がコーポレートウェルビーイングの本質をよく表しています。

そして、現代の多様性という観点も、このウェルビーイングを考える上で欠かせない要素となります。働き方に対する価値観もライフスタイルも本当に人それぞれであります。多様性の尊重は、コーポレートウェルビーイングの根幹に関わるテーマであります。

性別、年齢、国籍、性的指向、障害の有無といった属性の多様性はもちろんのこと、その人が持つ価値観、キャリアプラン、ライフステージ(例えば、育児・介護といった)の違いにも目を向けて、それぞれが自分らしく能力を発揮できる環境を整えていくことが求められます。画一的な制度や働き方を押し付けるのではなく、柔軟な選択肢を用意することが重要になってきます。

例えば、リモートワークやフレックスタイム制度の導入、副業の容認、育児や介護と両立しやすい支援制度などです。単に制度をつくるだけではなく、それが気兼ねなく利用できる職場の雰囲気、そうした文化を醸成することが必要不可欠です。

同時に、メンタルヘルス問題への対応もますます重要度を増していくことになります。これも多様性の一環とも言えます。現代社会において、メンタルの不調を抱える人というのは増加傾向にあり、これは企業にとって大きな課題です。重要なのは、早期発見と早期対応、そして予防です。ストレスチェックの義務化はもちろんですが、それだけではなく、従業員が気軽に相談できる窓口を設置することも大切です。

社内の相談員だけではなく、プライバシーに配慮した外部の専門機関(EAP:従業員支援プログラム)といったものと連携して、カウンセリングを受けやすい体制を整えることも有効です。管理職の方が、部下のメンタルヘルスの変化に気づいて適切に対応するための研修、ライフケア研修、これも重要です。不調を個人の問題として片付けるのではなく、組織全体の支えとして予防していくという意識を持つことが求められます。

コロナ禍を経て、私たちの働き方や価値観は大きく揺さぶられてきました。多くの人が「本当に大切なものは何か」「自分にとって幸せは何か」ということを問い直すきっかけになったように感じます。この経験はコーポレート・ウェルビーイングの考え方にどのように影響を与えていくのでしょうか。それは非常に大きな影響を与えたと言えます。

リモートワークの普及や働き方が物理的に変化しただけではなく、孤独感や将来への不安を感じている人が増えた一方で、家族との時間や地域とのつながりの大切さを再認識する機会にもなりました。ここから興味深い点なのですが、個人の幸せについて考えることから一歩進んで、組織として幸せって何だろうという問いに向き合う動きが加速しています。これが集合的ウェルビーイング(コレクティブウェルビーイング)と呼ばれる考え方です。

パンデミックという共通の困難を経験したことで、私たちはチームとして、この組織としてどんな状態を目指したいのか、どんな価値観を共有して、どんな関係性を築いていきたいのかといった、より共同体的な視点が重要視されるようになりました。集合的ウェルビーイングは、個人の幸せの単なる合計ではなく、チームや組織全体としての良好な状態ということになります。これは新しい視点でもあります。

どんな状況でも助け合い、支え合える関係性があるか、あるいは組織の目標達成と個々のメンバーの成長や幸福感がうまく連動しているかといった問いに、自信を持ってイエスと言えるような状態を目指すということです。これはトップダウンで強制できるものではなく、日々のコミュニケーションや協力の中で、メンバー自身が主体的に築き上げていくものになります。

その集合的ウェルビーイングや個人のウェルビーイングを育む上で鍵となる要素は、コネクションが重要です。つまり、つながりです。人間は社会的な生き物ですから、他者との有効な関係性の中で、安心感や帰属意識を得ます。職場においても、上司や同僚との間に信頼関係があり、互いに尊重し合える、そういうつながりを感じることは、ウェルビーイングに非常に大きな基盤となります。どんなに仕事が面白くても、人間関係が最悪だったりすると、つらい状況です。

でも、そのつながりをどうすれば育まれるものでしょうか。飲み会を増やせばいいみたいな単純な話ではありません。本質的なつながりを育む土台として、まず不可欠なのが、心理的安全性(サイコロジカルセーフティー)の確保です。これはチームの中で自分の意見を言ったり、質問したり、間違いを指摘したり、失敗を認めたりしても、罰せられたり、恥をかかされたり、人間関係が悪くなったりしないと、メンバーが信じている状態のことです。この安心感があるからこそ、本音の対話が生まれ、建設的な議論が可能になり、結果として強いつながりが生まれると考えられます。自由に発言できないとか、失敗が許されないような雰囲気では、表面的な付き合いはできても、本当の意味での信頼関係やつながりはなかなか生まれません。

心理的安全性を土台とした上で、共通の価値観の醸成も重要になってきます。私たちは何を大切にして、どこに向かっているのかという組織としての目的や価値観が明確であって、それがメンバーに共有されて共感されていることも、これも一体感やつながりを生む上で欠かせません。

さらに健全な多様性の受容(違いを認め合って、それぞれの強みを活かせる環境)や、感謝と称賛の文化(互いに貢献を認め合って感謝の気持ちを伝え合う習慣)があり、これらが相互に作用し合ってポジティブなつながりを育んでいくと考えられます。

日々のコミュニケーションの質が問われます。互いの意見や感情に敬意を払って、しっかりと耳を傾けられているか、相手の成功や成長を自分のことのように喜べるか、困っている人がいたら自然に手を差し伸べられるか、といった相互尊重と相互貢献の姿勢が基本です。

また、意識的にウェルビーイングについて対話する機会を持つことも有効です。最近どんなことにやりがいを感じているか、何か困っていることやサポートが必要なことがないかといった会話を、上司と部下、あるいはチームメンバー同士で定期的にかつオープンに行えるかどうか、こうした対話を通じて互いの状況や価値観への理解が深まり、必要なサポートにもつながりやすくなります。

加えて、ウェルビーイングを多角的に捉える視点も忘れてはなりません。仕事上のやりがい(キャリアウェルビーイング)だけではなく、良好な人間関係(社会的ウェルビーイング)、それから経済的な安定(経済的ウェルビーイング)、心身の健康(身体的ウェルビーイング)、そして地域社会とのつながり(地域社会のウェルビーイング)、こういったさまざまな側面が相互に関連しあって、個人の総合的な幸福感を形作っていきます。企業としても、これらの側面を考慮に入れた支援を考えることが望ましいです。

こうした文化や仕組みを組織の中に根付かせていくためには、やはりリーダーの役割が非常に重要です。リーダーには具体的にどのような行動や姿勢が求められていくのでしょうか。リーダーの役割は極めて重要です。組織のウェルビーイングを高める上で、リーダーはいくつかの異なる性質を持つ必要があります。

一つ目は、設計者(アーキテクト)としての役割です。ウェルビーイングが育まれるような組織構造、制度、プロセス、そして物理的な環境をデザインするという役割です。心理的安全性が保たれるチーム運営のルールづくりや、多様な働き方を支援する制度設計などが必要です。

二つ目は、教師(ティーチャー)としての役割です。ウェルビーイングの重要性をメンバーに伝え、その価値観を組織文化として浸透させていく役割です。自らがウェルビーイングについて学び続けて、その知識や考え方をメンバーと共有し、対話を促す、そういった姿勢が求められます。

そして三つ目が執事(スチュワード)、あるいはサーバントリーダーとしての役割です。メンバー一人一人に寄り添って、彼らの成長や活躍を支援し、奉仕する姿勢です。メンバーの声に耳を傾け、彼らが能力を発揮しやすいように、障害を取り除いて働きやすい環境を整え、権威を振りかざすのではなく、支えるリーダーシップです。これら多面的な役割を状況に応じて使い分けながら、組織全体のウェルビーイング向上を牽引していくことが期待されます。

設計者、教師、執事、リーダーには、本当に多様な能力や、深い人間理解が求められる時代になってきています。

全体を振り返って、これは単に従業員に優しくしようという話ではなく、個人の幸福感を起点としながら、組織全体の生産性、創造性、そして最終的に企業価値そのものを高めていくという、極めて戦略的なアプローチです。

重要なことは、理想論やスローガンで終わるのではなく、そのためにこれから何をするのか、つながりを核とした心理的安全性、共通価値観の浸透、そしてオープンの対話といった具体的な要素を、日々の業務や組織運営の中で着実に組み込んで実践し続けていくことが不可欠になります。一朝一夕に実現するものではなく、継続的な努力が求められる取り組みです。

コーポレートウェルビーイング、これは単なるトレンドワードとして消費するのではなく、これからの時代の働き方、そして組織のあり方を考える上で、非常に深く示唆に富んだ概念であるということを改めて感じていただけるのではないでしょうか。

職場やチームでは、意識的に他のメンバーの立場や視点、感情(共感的な姿勢)を理解しようと努める機会はどのくらいあるのでしょうか。そうした共感的な姿勢、あるいはその欠如がチーム全体の雰囲気や孤独感に影響します。日々の忙しさの中で、立ち止まって考える機会もないかもしれませんが、この問いが職場をより良くしていくためのきっかけとなります。

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