251106 世界経済動向
世界経済を一言で言うのであれば、不確実性の中で底堅く推移する世界経済、不確実性の中で、底堅く推移する世界経済。このような言い方ができると考える。IMFの発表した最新の世界経済見通し、10月14日に発表された最新によると、世界の成長率は2024年は各国ともインフレ圧力の抑制を図り、3.3%で、今年2025年は3.2%ということである。4月時点の発表が2.8%、7月が3.0%だったのが、さらに10月では上方修正されている。この背景にあるのが、追加関税が当初想定されていた水準を下回ったこと。それと、関税導入前の駆け込み需要というこれでの貿易の増加、何よりも心配されていた報復関税の応酬といった最悪の事態が回避されたこと。そして、AI市場の拡大というのも、成長を後押ししている。
国別に見ると、アメリカはこの伸びは鈍化するものの、まず堅調に推移する。ヨーロッパと日本は回復。中国は引き続き減速、インド・ASEANは引き続き高成長を維持し、2026年、世界の成長率は3.1%としている。各国とも不確実性の中で、柔軟な対応を取っており、国によって濃淡はあるものの、全体としては底堅く推移すると見立てている。
これはアメリカが設定した追加関税の税率であるが、各国の交渉の末、当初想定された関税率を下回る水準となっている。日本とEUの自動車関税も15%に落ち着いている。また、中国とはレアアースの輸出規制をめぐって一悶着あったものの、輸出規制の延期ということで、アメリカの100%追加関税は回避された。一方で、アメリカは関税交渉と引き換えに、日本やEU、韓国といった国から巨額の対米投資のコミットメントを獲得している。こうした形に落ち着いてはいるものの、この貿易摩擦というのは、依然として不安定な状況なので、今後とも注視が必要である。
それと、先日もあったが、カナダで完全に批判的なコマーシャルが流れたとして、10%追加課税が発表された。関税政策というのは、トランプ政権において対外交渉の最大の武器となっている。
こうした中で、アメリカ以外の国々で経済連携が活発化している。アメリカ抜きの連携である。アメリカ抜きの連携の中でも、下から2番目のCPTPP(TPP)は、EUだとか、ASEANの加入に向けて連携を強めている。一昨日もフィリピンとUAEが加盟申請する発表もされていたし、今、加盟申請中の国でも8カ国ある。今後、さらに拡大すると考えられる。票の下から、主要国の状況はどうかということであるが、各国とも政策対応によって底堅い経済成長としている。とは言っても、濃淡はあるということである。
主要各国の状況において、政治や経済も動いているので、若干変化していく部分もある。まず、アメリカは、アメリカの経済成長を常に下支えしているのが、GDPの7割を占める個人消費で、これが引き続き、堅調に推移すると見ている。足元では、雇用の伸びというのは減速しているものの、消費は堅調で、特に非耐久財とサービス、この2つの支出が増えている。7月にはBBAという減税法案も成立し、景気を押し上げる効果も期待できる。FRBが9月、10月と2会合連続で政策金利を引き下げたものの、それでも上限値で4.0%である。アメリカの中立金利は3%程度と言われているため、金利を引き下げるという政策余力も持っている。したがって、今後とも、個人消費を中心として、底堅く成長すると見ている。
心配なのは、次の中国である。不動産不況が続いている中で、景気刺激策として、消費拡大へ向けた補助金の政策というのを打ち出しており、これは一定の効果が出ているものの、年内で一巡すると見られている。EV減税というのも年内で終了する。足元で販売台数が伸びていたこともあって、2026年の自動車販売台数は急減速する可能性がある。そのため、個人消費の成長は鈍化していくものと見られるので、内需の成長が見込まれないことから、経済成長は減速すると見ている。
ヨーロッパは回復基調にある。自動車産業は、関税の影響を受けて、その影響が大きいドイツ、このドイツの成長は低下している。第2四半期では、マイナス成長に転落している。しかし、以前のように、ドイツがEU経済を牽引しているという状態ではないため、ヨーロッパ全体としては、緩やかな回復と見ている。その背景にあるのが、インフレの鈍化、そして実質賃金が上昇していることである。政策投資だとか、金利引き下げが個人消費の回復に寄与しており、こうしたことが内需を支えていくと見ている。
グローバルサウスはというと、インドである。インドの名目GDPは、日本を抜いて第4位になる見通しで、人口は昨年、中国を抜いて世界一である。世界経済の中でも重要な存在になっており、中東だとか、ASEANとの経済連携や協調、この動きも加速している。引き続き高成長を維持すると見ている。
ASEANはポスト中国として成長しているが、国によってばらつきがある。内需主導型のフィリピン、インドネシアは引き続き高成長、外部依存、外需依存の強いマレーシア、タイ、シンガポールは減速している。ベトナムも外需依存が高いが、足元では力強い成長を見せている。ただし、ベトナムは対米輸出の依存度が30%と高いため、今後の成長リスクとなる可能性があり、注視しておく必要がある。
世界経済のリスクを3点にまとめる。1点目は、広範囲の関税引き上げや高い相互関税の影響である。貿易政策の不確実性指数の推移より、相互関税が発表された4月には、急激な不確実性の高まりを見せていたものの、その後、各国との交渉合意が進むにつれ、低下している。これはトランプ政策の不確実性も相まって、まだ高い水準になっている。また起こり得るのではないか。
企業業績への影響ということであるが、最も大きい輸出品目である自動車の影響が大きい。自動車関連は、日本の対米輸出の総額における3分の1を占めている。そのため、日本経済への影響が大きい。各自動車メーカーの4月、6月の影響額で、合計すると、四半期で約8,000億円の影響が出ている。追加関税が15%に落ち着いたとはいえ、自動車各社への影響は避けられないし、円高に振れてくると、業績への影響も拡大すると見ている。
世界の貿易量、成長率であるが、これまで急ブレーキがかかっている。輸出企業を中心に、ビジネスモデルの転換だとか、サプライチェーンの見直しを検討していく必要があると考えている。
2つ目のリスク、国家間の武力紛争、そして誤情報、偽情報である。ロシア・ウクライナ侵攻、ガザ・イスラエル紛争に加えて、今年に入って、タイとカンボジアの国境紛争が再び激化したが、ここは和平合意をした。しかし、こうした紛争が日本企業に影響を及ぼすケースが今後も考えられるため、対岸の火事と捉えることなく、有事の際の対応というものをマニュアル化しておくことが必要である。いつ火の粉が飛んでくるかわからない。
それと、誤情報や偽情報である。特に気をつけないといけないのが、AIによる情報のねつ造である。AI動画は怖い。一目見ただけでも見分けがつかなくなってきている。以下は短期的・長期的リスクの深刻度のランキングである。特に短期的リスクについては、こうしたリスクを認識するということだけではなくて、企業が解決すべき社会課題として捉える、このような考えも必要になってくるのではないかと思う。
3つ目は、その下からあるが、気象異常、気象や激甚災害ということで、グラフにあるように、ここ数年、自然災害による経済損失は拡大している。大地震などもそうであるが、自然性そのものを事前に止めることは難しいため、いかに被害を少なくするかということが大切になってくる。ここも、企業が社会課題として捉えて解決していく分野でもあり、政府も力を入れている。例えば、国土強靭化だとか、防災減災、このような分野である。したがって、こうしたマーケットは拡大していくと考えている。
世界経済の潮流ということで、5つにまとめている。まず、この物価・消費の潮流について、消費者物価指数の変化率であるが、アメリカ、イギリス、ドイツは、関税の影響もあって、緩やかな上昇を見せているが、その他の国は低下トレンドにある。日本も2%台に低下している。世界のインフレ率は、2025年は4.2%、2026年は3.6%に低下すると見られている。これは、2023年が6.8%、2024年が5.8%だったため、世界的な金融引き締めだとか、サプライチェーンの見直しが功を奏しており、今後も先進国を中心に、インフレ率は目標水準にまで低下していくと見立てている。
一方、この消費はどうかというと、これは二極化が進んでいる。消費の二極化というのは、高価格帯の商品やサービスの支出が増える一方で、生活必需品では、節約志向が高まって、低価格帯の商品の需要が高まる、このような現象である。そのため、中間価格帯の商品は売れにくくなる。その背景にあるのが、所得格差の拡大ということで、これは地域別の国民所得シェアを示しているが、北米だとか、中東地域の格差が大きいというイメージが湧いてくる。しかし、実際は、世界全体から見ると、そうでもない。このグラフの青色と、左のグレーの棒グラフを比べてみると、わかるが、一番右に世界とあるように、世界全体で見たときも、この所得格差は大きいのである。したがって、所得格差は世界的な課題でもある。
所得格差の拡大というのは、消費に回るお金が一部に集中して、全体としての消費が伸び悩む原因にもなると同時に、政治不安にも気がつきやすいため、経済全体としても歓迎されるものではない。
開発と投資の潮流。日系企業へのASEANへの生産移管が進んでいる。理由は日本国内における人手不足ということであるが、この図表を見ると、中国への移管が72件に対して、ASEANが289件であり、圧倒的に上回っている。また、中国からASEANにシフトした企業が176件ある。これには関税対策というのもある。いずれにしても、チャイナリスクを回避するという点でも、ポスト中国としてのASEANの存在感が高まっている。
このデータは、日系企業の進出企業の営業利益の状態を国別で示したものであり、青色の部分が黒字企業である。中国への進出企業は、黒字企業が6割を切っており、業績が厳しくなってきている。逆に日系企業で数多く進出しているアジアの国で言うと、黒字企業が多いのが、台湾とインドとインドネシアとマレーシアである。黒字企業は7割を超えている。利益が出せる国へ投資する、このような考え方も必要になってくると考える。
もう1つは、クロスボーダーM&Aである。コロナショック以降、このクロスボーダーM&Aによる海外進出は、再び増加している。2024年の実績を見ると、アメリカが213件と最も多く、次いでシンガポールの51件、またヨーロッパだとか、ASEAN、中南米の企業買収も10%以上伸びている。クロスボーダーM&Aの目的は、国内市場が成熟化している中で、海外にマーケットを求めるということである。昨年も申し上げたが、グローバルで見れば、日本のGDPはわずか5%、残りの95%は日本の外にある。したがって、クロスボーダーM&Aという新しい経営技術を取り入れて、海外転換に取り組んでいただきたいと考えている。
金融財政の潮流について、終わりが見えてきた利下げ局面、増える公的債務とある。現在、主要国の政策金利は、インフレ率の低下に伴って、引き下げの局面にある。まず、アメリカは、今年に入って、しばらく据え置かれていた。FRBは9月0.25%、10月0.25%と連続して引き下げを決定し、現在上限値で4.0%になっている。今の状態だと、12月の会合では引き下げないのではないかと思うが、金利というのは、物価だとか、雇用と連動しているため、こうしたところが落ち着いてくると、金利は下げられる。ただ、問題は、パウエル議長、FRBのパウエル議長の任期が来年の5月に迫っているため、その後のトランプの影響力が強くなる可能性がある。彼は低金利を志向しているため、FRBに対して、金利引き下げを強く要請している。そのため、FRB議長交代後に急激な金利引き下げの実施があると、為替にも影響を引き起こすため、注視しておく必要がある。EUは、昨年の秋から今年の6月にかけて利下げを7回行っており、現在、政策金利は2.15%である。インフレも落ち着いているため、利下げ局面も終わると見られている。
中国は、不動産市況の低迷と景気対策から、緩やかな引き下げを行って、現在3%である。今後も景気動向を見ながら追加緩和の可能性がある。下にあるのが、公的債務、世界の公的債務であるが、これが増えている。裏返せば、積極財政が行われる。したがって、そのリターンを増やしていくことが大切である。例えば、企業の利益、あるいは個人の所得が増えて税収が増える、このようなことが求められるのである。
産業・技術の潮流とあるが、この分野には、成長の突破口となるビジネスチャンスが埋もれている。まずは、このAI市場。AI市場は今後急拡大すると見られている。これは、かつてのパソコンだとか、スマートフォンのように「あったらいい」から、「なくては困る」ツールになってくる。このAIと切り離せないのが、半導体とデータセンターである。半導体は、AI向けのロジック半導体と、データセンター向けのパワー半導体のどちらも伸びてくる。それと、AIの普及に伴って、需要が急増するのが、今申し上げたデータセンターである。今、建設ラッシュである。データセンターは、AIの処理能力の要求に応えるために、大量の電力が必要になってくる。それと、発熱量がすごい。
データセンターは電力を大変大量に消費する。一方では、クリーンな電力の使用を求められる。そこへ太陽光パネルだとか、蓄電池を設置して、データセンターの電力を再エネで賄うことができる。AIだとか、このデータセンターに一見なんら関係のないような企業にも、ビジネスチャンスがある。
成長するこのAI市場、自社の成長に取り込むキーワードは、半導体、電力、電気、データセンター、このあたりである。こうした周辺にチャンスの発見がある。
再生可能エネルギーについて、ペロブスカイト太陽電池が今、注目されている。薄っぺらいシートで、ふにゃふにゃっと曲げられる、そのような太陽電池である。積水化学工業がリードして事業化を進めているが、すでに大阪の梅北地下駅には設置されているし、先般の大阪・関西万博の会場にも、西口ゲートのあたりに設置はされていた。これが、いよいよ量産化に入る。量産化に入り、2040年には4兆円の市場になると言われている。それと、脱炭素エネルギーという点では、原子力発電が、ペロブスカイト太陽電池とともに、高市政権のエネルギー政策として挙げられている、原子力発電に関わるマーケットにチャンスがある。
電気自動車のEVは伸び悩んでおり、PHVが主である。自動車メーカーは、すでにPHVだとか、ハイブリッドに戦略を転換している。EVはやはり価格面とこの充電インフラの問題が大きい。自動運転では、今年の9月の25日、つい先日であるが、トヨタのウーブンシティが開業した。これは自動運転の実証都市である。豊田章男会長の長男が個人として仕切っている。e-Paletteという自動運転に対応したモビリティで、すでに販売もされている。ここも今後成長していく可能性がある。
協働ロボット
労働・雇用の潮流ということであるが、人手不足というのは、世界の課題である。日本だけではない。主要な7カ国において、日本の生産年齢人口の減少幅が圧倒的に大きいのがわかる。青色の折れ線グラフである。一方、グローバルサウスはというと、インドは引き続いて増加し、2050年では、日本の生産年齢人口の約20倍の規模である。下の方の表で見るとわかりやすいが、インドとアフリカ以外の国は、2040年あたりで頭打ちになってくる。そのため、インドやアフリカというのが、今後、魅力的な労働マーケットになってくると考えている。
この世界経済は、不確実性を抱えながらも、各国の柔軟な対応によって底堅く推移していく、底堅く推移する。不確実性が常態化している中だからこそ、変化を恐れず、むしろ、その変化の波に乗るために、創造性、行動力という経営者、リーダーシップが、私たち経営者に求められている。