
マネジメント力の本質と向上法について考察していきます。マネジメント能力は生まれつきの才能だと思われがちでありますが、意識とトレーニングで身についていく技術でもあります。単なるスキル論を述べるのではなく、優れたリーダーシップの根底にあるものは一体何であるか、その本質について探っていきます。
世間では、KPIやフレームワークと。という話が多くありますが、最終的に行き着く結論が「人間理解」つまり「情の深さ」というとても人間味臭い要素であります。そもそも、才能であるか、技術であるか、この議論がよく展開されていきますが、マネジメントは人を介して行う技術であると定義できます。単にプロジェクトを管理するということとは、少し,次元が違う話になります。技術である以上は向上させられるということも前提としてあります。
まず、人のことをよく知らなければ始まることではありません。つまり、人間理解です。洗練された戦略論や最新ツールを学んだとしても、それを使うのも、その影響を受けるのも、結局は感情を持った生身の人間であります。人間理解の象徴として、経営の神様、松下幸之助が挙げられます。人使いの達人とまで言われた強みは一体どこにあるのか。それは、彼が持っていた独特の人間観でありました。人をどう見るかという混沌的なスタンスです。有名な逸話があります。優秀な技術者を周囲の猛反対を押し切って全く畑違いの営業部門に移動させたという話です。普通に考えたら,かなり無謀にも聞こえます。彼はその技術者の専門スキルだけを見ていなかった。その人の物事の本質をつかんで、誰にでも分かりやすく説明するのが抜群にうまいという本質的な才能を見抜いていました。これこそが単にスキルセットで人を判断するのではなく、
その人全体を深く見て、可能性を信じる人間観の現れであります。この人間観の根底にあるべきなのが、人を愛すること。さらに踏み込んでいくと愛情ということです。愛情という言葉がビジネスの文脈に出てくると、少しふわっとした精神論みたいに聞こえてしまう部分もあります。
愛情は決して感傷的な話ではありません。むしろ相手の成功を心から願って、そのためなら厳しいフィードバックも厭わないという本気の関与を指しています。その人の表面的なスキルや経歴だけではなく、その人が,内に秘めている可能性や、本人すら気づいていない強みを本気で引き出してあげたいと願うこと、その深いレベルの関心があるからこそ、その人を一方の側面だけで捉えるのではなく、人と人をつなぐ才能がある、みたいな常識を超えた本質が見えてきます。これが愛情と適材適所がつながるメカニズムになります。本気の関与という、深く相手を見ようとする姿勢そのものがマネジメントであります。そして、その人間理解を深めるプロセスで、人そのものも成長していきます。
人は考え方が変わることで、成長して人生が変わります。その考え方の変化を促す決定的な要因が2つあります。1つは、良書に触れることです。そしてもう1つが、自己能力を引き上げてくれる他者との出会い。非常にシンプルですけれど、志をついています。注目すべきは、どちらも自分以外の外部からの刺激であるということです。人は自分の中だけで考えていてもなかなか変われません。自分の殻を壊してくれるような本や人との出会いこそが成長の起爆剤になるというわけです。
マネージャー自身もこうした出会いを求め続ける必要もありますし、同時に部下にとっての自己能力を引き上げてくれる他者に自分自身がならなければならないということでもあります。これはなかなかタフな役割です。学び続けるものであり、同時に他者を生かすものでなければなりません。その両輪が求められるわけです。
そうした個人の成長を支える全体像として、マネジメント力が育まれるプロセスを3つの要素に分解していきます。資質、環境、そして本人の選択、この3つです。資質は、生まれ持った才能や性格、そして後天的に伸ばせる部分も含まれるとされるのが救いであります。次に環境、特に周りに目標を達成してくれるような優れた人がいるかどうかが重要であります。そして最後が本人の選択。どんな道を選ぶかという意思決定です。
資質、環境、選択、この3つはどう関係し合っているのか考えていきます。植物を育てることに例えると分かりやすいかもしれません。資質は種みたいなものです。もともとポテンシャルでもあります。そして環境は土壌や天候です。豊富豊かな土壌で太陽の光を浴びれば、種はよく育ちます。選択はどの土壌にその種をまくかとか、毎日水をやるかという農夫、その行動そのものであります。
多くの人は良い環境に恵まれないと言って嘆きますけど、良い本を手に取ることや、誰に会うか決めることや、そういう日々の小さな選択こそが自分の環境を主体的に作り出すということになります。良い選択を続ければ環境が良くなり、それが自分の質をさらに引き出してくれるというポジティブな循環がうまくいきます。逆に、悪い選択が悪い環境を呼んで、せっかくの資質を腐らせてしまうということもありえます。
これらのすべての土台に、やはりその人の人間観が透けて見えることになります。結局、出発点に戻ってきます。非常に美しい構造です。どんな本を選択するか、どんな人を素晴らしい環境だと感じるか、そのすべてに人をどう,見ているかという、その人の哲学が反映されます。だからこそ、小手先のテクニックではなく、まず自分自身の人間観を磨くことが重要だというメッセージにつながってきます。優れたマネジメント力を持つ人物とは、突き詰めれば情の深い人であり、情という言葉が結論に出てくるのは、なぜなのでしょうか。なぜなら、人は理屈だけでは動かないという、絶対的な事実に基づいているからであります。人は正論だけを言われても心が動きません。最終的には、「この人についていきたい」とか「この人のためなら頑張れる」って思わせる人間的な魅力、つまり情に引き継げられて、この情の深い人と人っていう言葉をもう少し分解すると、先ほど話した、また本気の関与ができる人ということになります。
情というのは、ただ優しいとか、感情的ということではありません。むしろ、相手の成長を心から願うからこそ、時には厳しいことも言う。部下の失敗を自分の責任として引き受ける部下が、本当にやりたいことのために、組織の壁を壊してでも道を作ってあげようとする。そういった相手に向けられた熱量のある働きかけそのものが情であります。この熱量こそが、人を惹きつける求心力の源泉であり、マネジメント力の鍵を握ると結論付けています。そう考えると、目指すべきリーダー像は、生まれ持った資質があって、それに甘んじることなく、良書や人との出会いを選択して、良い環境に身を置いて、学びによって資質を高め続ける。そして、そのすべての行動の根底に、人への愛情、そこから生まれてくる情の深さがあります。才能だけでも、後天的な学習だけでも、その両方を統合して人間的な深みへと昇華させていきます。それが真のマネジメントの道です。
才能か、技術かという二元論的な問いから始まった探求は、最終的に愛情や情の深さという人間的な本質へたどり着きました。マネジメント力とは、人をどう動かすかという操作的な技術ではなく、人をどう愛し、どう関わるかという自分自身の生き方そのものが問われる営みであります。