思考特性と行動特性

第1章:ハーマンモデルとエマジェネティクスの概要

ハーマンモデル(HBDI:Herrmann Brain Dominance Instrument)は、人間の思考スタイルを4つの象限に分類することで、個人の「利き脳」や認知傾向を理解するための理論モデルです。1980年代にGE社のネッド・ハーマン博士によって開発され、世界中の企業や教育機関で活用されています。

一方、エマジェネティクス(Emergenetics)は、「Emerge(出現する)」と「Genetics(遺伝学)」を組み合わせた造語であり、ハーマンモデルの思考特性に加えて、3つの行動特性(自己表現性・自己主張性・柔軟性)を取り入れた理論です。これにより、人の思考と行動の特性をより立体的に捉えることが可能になります。

以下のサイトでは、簡単な質問に答えることで、自分の思考タイプを知ることができます。
👉 https://herrmann.rere.page/

第2章:思考スタイルの違いが生むコミュニケーションギャップ

人はそれぞれ、考え方やコミュニケーションの取り方に癖があります。こうした違いは、なぜ生まれるのでしょうか。そして、それが日常の人間関係や仕事の進め方にどのような影響を与えているのでしょうか。

日頃のコミュニケーションを見直したり、自分自身の新しい見方を理解するために、思考スタイルの違いを知ることは非常に有益です。職場では、コミュニケーションのすれ違いによって意思疎通がうまくいかず、結果として人が離れてしまうことが少なくありません。実際、離職の原因の多くはコミュニケーションギャップにあると言われています。

「なぜ伝わらないのか」「なぜ分かり合えないのか」——その根本にあるのが、エマジェネティクス(EG)という考え方です。

第3章:思考スタイルの違いを理解する

EGはEQ(感情指数)とは異なり、脳の特性に基づいた思考や認知の好みのパターンを示します。いわゆる「利き脳」の概念です。

人にはそれぞれ異なる思考パターンがあり、「違うこと」が前提です。私たちはつい、自分の「普通」を基準にしてしまいますが、その「普通」は人によってまったく異なります。

例えば、ある人にとっては結論から話すのが自然でも、別の人には経緯から丁寧に説明されないと理解できないというのが自然です。こうした根本的な思考スタイルの違いが、コミュニケーションギャップにつながる可能性があります。

仕事におけるコミュニケーションは、単に仲良くすることではなく、考え方の違いを認識し、それを乗り越えて情報を正確に伝えることが重要です。感情的に寄り添うだけでなく、相手がどのようなプロセスで考えているのか、思考の地図のようなものを理解することが非常に大切です。

第4章:EGの思考特性と行動特性の分類

エマジェネティクス(EG)では、人の思考スタイルを以下の4つのタイプに分類しています。それぞれ色で象徴され、特徴的な認知傾向を持っています。

思考特性(4タイプ)

  1. 分析型(青)
    論理的・客観的で、データや事実を重視するタイプ。問題解決や検証に強みがあります。
  2. 構造型(緑)
    几帳面で計画的。手順やルールを重んじ、安定した進行を好むタイプです。
  3. コンセプト型(黄)
    独創的なアイデアを生み出すのが得意。未来志向で、全体像を捉える力があります。
  4. 社交型(赤)
    人間関係を重視し、共感力が高い。チームの調和や協力を大切にするタイプです。

誰もがこれらの要素を持っていますが、どの特性をより好んで使うかに違いがあります。たとえば、「あの人はデータに厳しいから青っぽい」「いつも周囲に気を配っているから赤の人だな」といったように、周囲の人を思い浮かべると当てはまることがあるかもしれません。

行動特性(3タイプ)

EGでは、思考の好みに加えて、行動のスタイルも重視しています。以下の3つの行動特性があります。

  1. 自己表現性
    意見を述べる際に、じっくり考えてから話す「熟考型」と、思いついたらすぐに言葉にする「活発型」に分かれます。
  2. 自己主張性
    自分の意見や信念をどれだけ強く伝え、持ち続けるかという特性です。
  3. 柔軟性
    変化に対してどのように向き合うか。一貫性を保ちたいタイプか、柔軟に対応するタイプかに分かれます。

この4つの思考特性と3つの行動特性の組み合わせにより、非常に多様な人間のスタイルが生まれます。思考の「エンジン」としての4タイプと、それをどう「動かすか」という行動特性の組み合わせが、個人の特性をより深く理解するための鍵となります。

たとえば、同じ分析型でも、じっくり考えて発言する人と、積極的に意見を主張する人では、周囲からの見え方やコミュニケーションの取り方が大きく異なります。

これは単なる性格診断ではなく、「なぜ人が特定の状況でそのように振る舞うのか」という背景にある好みを理解するための、非常に解像度の高い地図と言えるでしょう。

第5章:ハーマンモデル(HBDI)との比較と診断結果の考察

ハーマンモデル(HBDI:Herrmann Brain Dominance Instrument)は、正式名称を「ハーマン・ブレイン・ドミナンス・インストゥルメント」といい、脳の特性に基づく思考の優位性、いわゆる「利き脳」を可視化するツールです。

EGが4つの思考特性と3つの行動特性で人の傾向を捉えるのに対し、HBDIでは思考様式を以下の4つのゾーンに分類します。

HBDIの4つのゾーン

  • Aゾーン(論理的・分析的思考)
    データや事実に基づいて、合理的に物事を考えるスタイル。
  • Bゾーン(計画的・組織的思考)
    手順やルールを重視し、計画的に物事を進めるスタイル。
  • Cゾーン(感情的・対人的思考)
    人間関係や感情を重視し、共感的に物事を捉えるスタイル。
  • Dゾーン(概念的・創造的思考)
    アイデアや全体像、未来志向で物事を捉えるスタイル。

HBDIでは、どのゾーンの思考をより自然に、あるいは優先的に使う傾向があるかをスコアで可視化します。

実際の診断結果から読み取れる傾向

2016年2月29日に私が受けたHBDIの診断結果では、以下のスコアが出ました:

  • Aゾーン:65点
  • Bゾーン:71点
  • Cゾーン:87点
  • Dゾーン:104点

この結果から、特にDゾーン(概念的・創造的思考)が非常に高く、最も優先される思考スタイルであることが分かります。HBDIでは、スコアが67点以上を「優勢領域」、34点〜66.5点を「使用可能領域」、33点以下を「回避領域」と定義しています。

私の場合、BCDの3つが優勢領域に入り、特にDゾーンが100点を超えているため、創造的思考が最も強い傾向にあります。一方、Aゾーン(論理的・分析的思考)は使用可能領域にあり、必要に応じて使えるものの、好みとしてはやや低めです。

このプロファイルは、全人口の中でも約10%程度しか見られない比較的珍しいタイプとされており、非常に多彩な思考スタイルを持っている可能性が高いとされています。

多様性とバランスのある思考スタイル

この診断結果から読み取れるのは、以下のような特徴です:

  • Bゾーン:計画性・組織力
  • Cゾーン:対人感受性・コミュニケーション力
  • Dゾーン:アイデア・発想・全体構想力

これらの異なる性質の思考モードをバランスよく、しかも高いレベルで使いこなせる可能性があります。人事、コンサルタント、教育者、セラピストなど、多角的な視点と対人スキル、創造性が求められる役割で力を発揮しやすいタイプです。

一方で、どの領域にも強く関心がある分、一つの専門分野に深く特化することが難しい場合や、周囲から「何を考えているのかつかみどころがない」と思われる可能性もあります。

第6章:簡易診断結果から読み取れる自己理解

2025年9月28日に行った簡易診断の結果では、以下のようなスコアが得られました:

  • C領域(感情的・対人的思考):10点(満点)
  • D領域(概念的・創造的思考):9点
  • A領域(論理的・分析的思考):6点
  • B領域(計画的・組織的思考):6点

この結果から、私はまず何よりも人間関係や他者の感情、チームの調和といったC領域の要素を非常に重視する傾向が強いことが分かります。共感力が高く、人と協力したりサポートしたりすることに喜びを感じるタイプです。

加えて、D領域も高得点であることから、新しいアイデアを生み出す力や、物事の本質・全体像を捉える力、未来志向の思考も私の大きな強みであるといえます。

自覚と傾向の理解

Cタイプが満点、Dタイプも高得点という結果から、私は人と話すことや新しいことを考えることが好きであるという自覚があります。

一方で、A(論理)とB(計画)のスコアが相対的に低いことから、データや事実に基づいた客観的な分析や、細かい手順やルール、スケジュールに厳密に従うことに対しては、CやDほどのエネルギーを感じない、あるいは苦手意識がある可能性もあります。

たとえば、会議では感情的な側面や新しい可能性については活発に発言する一方で、具体的な実行計画の詰めやリスク分析になると、興味が薄れてしまう場面もあるかもしれません。

こうした傾向をしっかりと自覚しておくことは、自己理解を深めるうえで非常に重要です。

第7章:コミュニケーションギャップの実例と異なるタイプとの関わり方

前述のように、約49%の人が職場でのコミュニケーションギャップに悩んでいるというデータがあります。これは、思考スタイルの違いが原因で、相手の言動が理解できなかったり、誤解が生じたりすることが多いということを示しています。

たとえば、CやDタイプ(感情的・創造的思考)が得意な人が、Aタイプ(論理的思考)やBタイプ(計画的思考)の人と仕事をする場合、次のようなすれ違いが起こる可能性があります。

  • 「なんでそんな細かいことばかり言うんだろう?」
  • 「もっと全体を見てほしいんだけど…」

こうした感覚は、相手の思考スタイルを理解していないことから生まれるものです。

違いを乗り越えるための視点

ここで重要なのは、エマジェネティクスもハーマンモデルも、優劣をつけるためのものではないということです。あくまで「違いを理解し、乗り越えるためのツール」です。

これらの分析から得られる最も大切なメッセージは、相互理解の解像度を上げることです。

「人によって思考の原点が異なる」という気づきは、単なる知識ではなく、具体的な行動の変化につながります。

たとえば、自分とは違うタイプの人に対しては、意識的にアプローチを変える必要があります。

実践的な工夫の例

  • 分析型(青)/HBDIのAタイプ
    → 話すときは、まず結論とその根拠となるデータを簡潔に伝える。
  • 社交型(赤)/HBDIのCタイプ
    → まず気持ちを伝えて共感を示してから本題に入る。

こうした工夫は、部下の指導や育成にも大いに役立ちます。相手のタイプに合わせて、指示の出し方・褒め方・フィードバックの仕方を変えることで、より効果的な育成が可能になります。

「なんでわかってくれないんだ」と嘆く前に、「どう伝えたらこの人の思考スタイルに響くか」を考える視点。この転換こそが、コミュニケーションギャップによる離職を防ぎ、心理的安全性の高い関係性を築く鍵になるかもしれません。

第8章:職場以外への応用と人間関係の改善

これまで述べてきたエマジェネティクスやハーマンモデルの考え方は、職場のコミュニケーションだけでなく、家庭や友人関係など、あらゆる人間関係に応用可能です。

たとえば、「あの人はああいう人だから仕方ない」と諦めるのではなく、「あの人の思考の好みはこうかもしれないから、こういうアプローチを試してみよう」と考えるようになることで、見える世界が変わってくる可能性があります。

思考スタイルに合わせた接し方の工夫

  • **分析型(青)**の人には、根拠やデータを明確に示す。
  • **構造型(緑)**の人には、手順や計画を丁寧に説明する。
  • **コンセプト型(黄)**の人には、未来の可能性や全体像を語る。
  • **社交型(赤)**の人には、気持ちや人間関係を大切にする姿勢を見せる。

こうした工夫は、家族との会話や友人との関係性にも効果を発揮します。相手の思考スタイルを理解し、それに合わせて接することで、より深い信頼関係を築くことができます。

型にはめるのではなく、多様性を尊重する

エマジェネティクスやハーマンモデルは、決して人を型にはめたり、単純化するためのものではありません。むしろ逆で、一人ひとりが持つユニークな思考の多様性を認識し、尊重し、チームや組織、個人の成長の力として活用するための重要なヒントを与えてくれるツールです。

表面的な言動だけで判断するのではなく、その人なりの世界の捉え方や情報の処理の仕方、価値観といった深いレベルに目を向けることで、より本質的な理解が可能になります。

第9章:自己理解と他者理解の深化、そして実践への展望

エマジェネティクスやハーマンモデルの活用を通じて、私は自分が**感情的・対人的思考(Cタイプ)と創造的思考(Dタイプ)**に強みを持っていることを理解しました。

一方で、**論理的・分析的思考(Aタイプ)や計画的・組織的思考(Bタイプ)**を重視する人と協働する際には、意識的にコミュニケーションスタイルを調整する必要があると感じています。

たとえば、AタイプやBタイプの人と重要なプロジェクトを進める場合、次のような工夫が考えられます:

  • Aタイプの人には、感情や抽象的な話よりも、まず結論とその根拠となるデータを明確に伝える。
  • Bタイプの人には、自由な発想よりも、具体的な手順やスケジュールをしっかり共有する。

こうした小さな工夫が、49%のコミュニケーションギャップの壁を乗り越える大きな一歩になるかもしれません。

気づきから行動へ

この学びの本質は、「人は違う」という事実を知るだけでなく、違うからこそ、どう接するかを考えることにあります。

  • 自分とは異なるタイプの人に対して、意識的にアプローチを変える。
  • 相手の思考スタイルに合わせて伝え方を工夫する。
  • 表面的な言動だけでなく、思考の背景にある価値観や認知のクセに目を向ける。

これらの視点は、職場だけでなく、家庭や友人関係など、すべての人間関係に応用できるものです。

フレームワークの力

エマジェネティクスやハーマンモデルは、単なる診断ツールではなく、自己理解と他者理解を深めるための強力なフレームワークです。

人を型にはめるのではなく、一人ひとりのユニークな思考の多様性を認識し、尊重すること。そして、それをチームや組織、個人の成長の力として活用することが、これらの理論の本質です。

終わりに

この学びを通じて、私は「違いを知ること」が、単なる知識ではなく、実践的なコミュニケーションの質を高める鍵であると実感しました。

もしこの時間が少しでも有意義であったなら幸いです。
今後の人間関係やチームづくりに、ぜひこの視点を活かしていきたいと思います。

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