251006 人の心をぐっとつかむ話し方
ぐっと人の心をつかむ話し方、特に情景の描写が必要になります。自分の見たこととか感じたことをいかに相手の心に届けるか。すごいと響かせられるのか、その秘訣を伝えていきます。
人を動かすというのは、コミュニケーションの、本質的な部分です。人はどこかで、他者と感情的につながりたいと願っていますが、同時に、傷つかないように、無意識に心のシャッターを下ろしてしまう部分があります。人は心が動かないように、プロテクトをかけているところがあります。動かされたい欲求とプロテクトの気持ちが働きます。一見矛盾するような心の動きのその境目で、どうやって相手に働きかけるかが大事となります。
自分の心が動いた経験を伝えることが大事です。そのため、日々、そのための素材を集めることです。自分のリアルな体験を話すことが重要です。いかに話に魂が宿るかに関わってきます。借り物の言葉や一般論では、表面的なものになりがちです。自分が実際に見て聞いて、それで心が揺さぶられた経験は、言葉を超えたリアリティー、つまり真実味と、熱量が乗ります。大事なことは、単に体験しましたで、終わらないことです。
いくら熱量を込めるといっても、主観を伝えてばかりでは響きません。むしろ客観的な事実を描写できることができるようにすることが、実は伝わる秘訣です。自分の感動を、もう最高、 感動したと、熱く語るんじゃなくて、何か淡々と事実を描写する方が、かえって相手の心を動かすことになります。
人の心を動かすために、ある種の逆説的な考え方です。非常な重要なテクニックです。なぜ客観的描写が必要なのか説明します。それは、聞き手の頭の中にスペースを作るからであります。聞き手の頭の中には、客観的な事実を基づき、例えば、色や形や音など、人の動きの場の雰囲気を具体的に描写することで、聞き手はその情報をもとに、自分自身の頭の中でその状況を再構築、できるようになります。その再構築された状況の中で、聞き手自身の感情が生まれるのを待つことも大事であります。情景の共有です。つまり、ただ感動したと言っても、それは伝わることはありません。それは自分の感情の結果であって、聞き手の受け取る感情とは違います。客観的な描写をすれば、聞き手はその情景を追体験して自分なりの感情として受け止め、同じ感動かもしれないし、あるいは何か寂しさや懐かしさもしれないけど、とにかく聞き手自身の感情を引き出すことが大事になります。
例えば、「昨日の夕焼け、めちゃくちゃ感動した」と言ったとします。私が興奮して言ったとします。しかし、それだけでは相手はそうなんだと一言で終わってしまうかもしれません。それだけでは心は動くものではありません。もし僕が日が落ちる直前で、あの雲の切れ目から漏れた光が古いビルの壁をサーッと金色に照らしたんです。すぐそばの工事現場のクレーンが、なんかまるで巨大な鳥みたいにシルエットになって、風がピタッと止まって遠くから聞こえる電車の音だけがやけにクリアだったみたいな。そのような具体的に描写できたら、何か情景が目に浮かんできます。聞いてる人も心の中で、ズバッと生まれてくる感じがします。
話し手の感情を押し付けないからこそ、聞き手の感情が自由に動けるものです。話をしている側の盛り上がりが相手には伝わらないというのは、このような注意喚起が必要になります。主観的な言葉、例えば、すごい、面白い、やばい、感動した。そういうのを連発すると、話し手は気持ちいいかもしれないですけど、聞き手は結構置いていかれる気がしてしまいます。客観的な描写というのは、いわば聞き手の想像力というエンジンにかけるための鍵を提供するようなものです。自分の感情を避け、相手の心に火を灯すために、ある種の火をそっと置くみたいな感じであります。これは意識して使ってみたい技術です。
その客観的描写をどうやって効果的に伝えていくのか、伝え方にも工夫が必要です。ワンセンテンスは長くなく、場面を切り替えていくと集中して聞けるようになります。情景の共有や場面の展開を早くしてあげます。短いショットをテンポよくつないでいくと、聞き手の集中力も保つ上で有効になります。聞き手に飽きさせないということにもなります。人間の集中力は、特に聞くという行為に対する集中力は、残念ながらそんなに長くはつきません。
聞き手の脳内に情景を浮かべるということが大事になります。ダラダラと長く一文で説明されるよりもパンと短い文で画面が変わる方が映像がクリアに結びやすくて話の流れに突入していくようになります。このテンポの良い客観的描写が目指す最終的なゴールは、やはり聞き手の心が動くことにあります。何らかの感情が動くというその体験を引き起こすことです。
この巧みな描写とリズミカルな展開。そっと何か気づかれないようにプロテクトを解除していき、心の奥にある本当は心は動かされたいんだというその欲求に応えてあげる。そういうアプローチとも言えます。心のプロテクトを描写とテンポ良さで解除していきます。意識的な訓練も必要になります。興奮すると、どうしても自分の感情をそのまま言葉にしたくなりますから、そこをグッと堪えて客観的な視点を保って、何が見えたのか、何をどのように感じたのか、その事実に立ち返ることが大事です。それを短い言葉で描写して慣れるまで、確かに難しいかもしれません。
また、ここで大事にしたいのは、相手に、面白く興味が湧く話が大事ということです。どんなに描写とか構成の技術を磨いても、そもそもその話題自体がつまらなければ、人の心は動きません。面白い話、興味深い体験を伝えるために、まず観察者として冷静に素材を集めるということも大事になります。自分の感情を直接叫ぶのではなく、客観的な事実を短いセンテンツでテンポよく描写していく。
それによって、聞き手の頭の中に情景を共有して、聞き手自身の感情が生まれるのを助ける。これが、人の心を動かす話し方の秘訣ということになります。この観察者としての視点を意識的に持つというトレーニングについては、コミュニケーション能力を高めるだけではありません。自分自身が普段、日常の世界から何に気づいて何を感じる,そして読み取るのか、つまり自分自身の認識の解像度自体を変えていくという習慣づけが大事になります。
例えば、目の前にあるコーヒーカップ。ただのコーヒーカップがある。ではなく、白い陶器で、取っ手の付け根に、小さなヒビが入っているなとか、湯気がこうゆらゆらと立ち上がっていて、部屋の蛍光灯が表面に鈍く反射していくみたいに。そうやって意識的に描写しようとすると、普段は見過ごしている、細かいところに気づくようになります。色とか形、質感、感覚、光の当たり方なんか、小さな変化とかをとらえ習慣を続けると、世界がもっと豊かに面白く見えてくるかもしれません。心を動かす話をするための改善というのは、まず自分の周りの世界に驚きを持って注意深く見つめることから始まるということです。