三島 ウィスキー蒸留所

ウイスキー蒸留所「ウイスキー・アンド・コー(Whiskey&Co.)」の見学ツアーにおいて、代表の大石氏により語られた同社の独自の製品作りや、地域と連携した革新的なビジネスモデルについての解説です。

  1. 社名「ウイスキー・アンド・コー」に込められた哲学と製法 日本のウイスキー作りはスコットランドから製法を学んだ歴史があり、一般的に綴りは「WHISKY」と表記されます。しかし同社は、アイルランド移民がアメリカで広めたバーボンスタイルに敬意を表し、「WHISKEY」と「KEY(鍵)」を含む綴りを社名に採用しています。日本においては「ジャパニーズウイスキー=スコッチスタイル(モルト主体)」というイメージが強い中、同社はあえて「ジャパニーズ・バーボンスタイル」という新たなジャンルを確立し、日本のウイスキーの次の100年を作っていくという強い決意を持っています。また、「&Co.(アンド・コー)」という部分には、単なる酒造メーカーにとどまらず「町と一緒にお酒作りをしたい」「応援してくれるファンと共に作り上げたい」というビジョンが込められています。 製法としてもバーボンの伝統を踏襲し、トウモロコシを主原料とし、内側を焦がしたアメリカンホワイトオークの100%新樽のみを使用して熟成を行っています。
  • 多彩な製品展開と気鋭の製造チーム 同社はウイスキーだけでなく、ジンや焼酎の製造も手掛けています。見学ツアーの冒頭では、三島産の谷田生姜と沼津産の甘夏を用いたクラフトジン「ウォータードラゴンスピリッツ」をベースにした「三島レモンサワー」が提供され、その豊かな香りと爽やかさから都内の飲食店でも人気を博していることが紹介されました。 これらの酒造りを担うのは、非常にユニークで実力のある製造チームです。所長の山浦氏は、焼酎蔵の西酒造でスコッチウイスキー蒸留所の立ち上げを指揮した経験を持ちます。ジン製造をメインとする山口氏は農学博士であり、植物成分の研究等を経て醸造の世界に飛び込み、「Forbes 30 Under 30(世界を変える30歳以下の30人)」にも選出された異色の経歴の持ち主です。彼らを中心としたチームが品質の高い製品を生み出しています。 バーボンと名乗るには2年以上の樽熟成が必要なため、2023年設立の同社はまだその期間に達していません。しかし、新樽由来の豊かな甘い香りが数ヶ月の熟成でも十分に現れるため、現在「リトルキー(Little KEY)」という名前で熟成途中の原酒を先行販売しています。この製品はすでにイギリスやアジアの品評会で最高賞を受賞するなど、高い評価を獲得しています。
  • 文化財の活用と三島の街全体を巻き込んだ「街中貯蔵庫」 蒸留所「ディスティラリー ウォータードラゴン」は、築100年を誇る国の登録有形文化財「旧村上邸」をリノベーションして作られました。三島の豊かな川の流れと、風水における繁栄の象徴である「水竜」から名付けられています。施設には有名アートチーム「OVER ALLs」による壁画が描かれ、文化と現代アートが融合した空間となっています。 さらに同社は、小規模な都市型蒸留所としてのスペースの制約を逆手に取り、三島の街全体を巻き込む革新的な取り組みを行っています。自社内に大規模な樽の貯蔵庫を持たず、市内の住宅展示場(三建産業)の駐車場や、精肉店(高田屋)が運営するバーベキュー場など、街の至る所に協力を仰いで熟成樽を設置しているのです。これにより、訪れた人々が三島の街を歩きながら「樽巡り」をするという新たな動線が生まれ、市内の人流創出と地域活性化に大きく貢献しています。
  • 「究極の地域限定」とトークンを活用した新しい顧客コミュニティ 販売戦略においても「三島への貢献」が徹底されています。同社のナショナルブランドのウイスキーは、原則として三島エリアのスーパーなどでしか販売されず、インターネット通販にも卸していません。「ボトルを買うためには三島に来るしかない」という状況を作ることで、直接的な観光誘致を狙っているのです。一方で、三島市外の飲食店や企業に向けては、熟成樽ごと買い取れる「プライベートブランド」としての販売を行い、独自の需要を開拓しています。 また、三島に来られない遠方のファンへの対応策として、「FiNANCiE(フィナンシェ)」というクラウドファンディングアプリを活用し、独自のデジタルトークンを発行しています。トークンを購入してプロジェクトを応援してくれるファンには、オンラインでウイスキーを定価で購入できる権利や、バーでの優待などの特典が付与されます。これは、商品を単に転売目的で買い占められるのを防ぎ、会社の成長を一緒に楽しんでくれる「本当のファン」に対して適正な価格で確実にウイスキーを届けるための、現代的なコミュニティ形成の仕組みです。

まとめ ウイスキー・アンド・コーの取り組みは、日本における全く新しい「ジャパニーズ・バーボンスタイル」の開拓であると同時に、地方創生の実践でもあります。三島という土地の文化と自然を活かし、街中を貯蔵庫化するアイデアや、デジタルトークンを用いたファンビジネスを組み合わせることで、単なる酒造メーカーの枠を超えた「コミュニティ共創型」のビジネスモデルを見事に体現しています。

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