『王道の経営と人間の生き方』


1. 人格と道徳――リーダーに不可欠な人間的魅力

人格面において、リーダーは他の社員から慕われ、尊敬される人間でなければなりません。いくら仕事の能力が高くても、人間的な魅力に欠けていれば、人はついてこないからです。人柄や責任感の強さこそが、経営者にとって欠かせない要素となります。
経営陣には「万機公論に決すべし(すべての事を公平な議論によって決める)」の精神で業務に取り組んでもらいたいと考えます。その際、個人的なこだわりや好みで判断するのではなく、互いに素直な心を持ち、虚心坦懐に相手の話を聞いて判断することが大切です。
論語の教える基本道徳には、以下の5つの徳目(五常)があります。

- 仁:他人への優しさや思いやり。
- 義:正義であり、正しい行いを守ること。
- 礼:礼儀作法であり、人に礼を尽くす心。
- 智:物の道理を正しく知ること。
- 信:人を欺かず約束を守る誠実さ。
戦後の教育では論語をはじめとする道徳を学ぶ機会が減り、基本規範が十分に身についていない人が増えています。だからこそ、こうした道徳面からの人材教育を行うことで、一人ひとりの人格を高めていくことが重要なのです。優れた人格者は、社内の同僚からも取引先の皆様からも愛されるようになります。
2. 天地自然と命への感謝――「利他の精神」と「敬天愛人」

私たちは「利他の精神(他者を思いやり、利益を優先する心)」を持つことが大切です。では、なぜ、何に対して我々は感謝すべきなのでしょうか。
無限に広い宇宙から見れば、地球はほんの一片の塵(ちり)に過ぎません。その小さな地球の上で、何十億人もの人間がいて、そのうちの一人として生かされている――その奇跡に対して、まずは無条件に感謝すべきではないでしょうか。そして、感謝の念を抱くのであれば、何かしらのお返し(報恩)をしなければなりません。
私たちは働いて得た成果や利益の中から、何らかの形で社会に貢献し、利他の精神で還元していくのです。そうした考えと実際の行動が、世界の平和と繁栄につながっていきます。社員の幸せを願うことも、そのために会社を発展に導くことも、すべて経営者の「利他の精神」の現れに他なりません。
「敬天愛人」とは、西郷隆盛の有名な言葉で、「天を敬い、人を愛する」という意味です。天はすべての人を分け隔てなく愛します。したがって、私たちも同様に、学歴や人種、性別などで人を差別することなく、あらゆる人を愛していかなければなりません。
この世に生まれた私たちは、天地自然の恵みを受け、幾多のご先祖様が命のリレーをつないでくれたおかげで、今ここに生きています。この奇跡に思いを馳せるとき、天を敬い、人を愛し、互いに助け合って生きることはごく当然のことと言えます。天や先祖から受けた恩恵に感謝し、見返りを求めず人に尽くす生き方こそが、人として最も大切な姿勢なのです。
3. 組織の調和と人材育成のあり方

活気ある組織を作るには、トップダウンの命令系統と、全員の意見を吸い上げるボトムアップのバランスが不可欠です。礼儀をわきまえた上で、立場の上下にかかわらず建設的な意見を受け入れることで、互いに成長し、組織も発展していきます。
「融和」とは、完全に溶け合うように和することです。感謝の気持ちを持って誠実に相手と向き合い、協力し合えば、争いもなくなり、すべての人間関係が良好になります。
部下を育てる上では、以下のポイントが重要です。
- 自分の能力以上の仕事に挑戦させる:部下の実力よりも少し難しい課題に取り組ませることで、本人の実力は高まります。一言で言えば「努力した人間が這い上がる」ということです。
- 規律と自由のバランスをとる:規則が多すぎると失敗を恐れて挑戦する心を失ってしまいます。
- 多様な経験を与える:特に若手社員には判断力、決断力、勇気を養うための経験(海外出張など)をさせ、広い視野を持たせることが大切です。私自身、創業期に世界各国へ出て「日本や自社業界という小さな枠にとらわれる必要はない」と開眼しました。
- 指導者の役割を果たす:指導者は、部下を癒す「医者」であり、性格を見通す「易者」であり、不安を与えないように演じる「役者」でなければなりません。程よくプレッシャーを取り除き、良いタイミングで話を聞いてやることが指導の極意です。
また、「温故知新(古い教えを学び、新しい知識や道理を身につける)」は指導者のみならず、現代のビジネスマンにとっても進化・成長のための必須条件と言えます。
4. 経営者の覚悟と「個人商店」の意識

会社というものは、最初から当たり前のように存在するものではありません。創業者の精神と、社業に関わったすべての人々の血と汗と涙の結晶です。
経営者は、自らを一つの「個人商店」だと自覚する必要があります。個人商店は赤字を出せば即倒産します。だからこそ、中途半端な仕事は許されず、個人単位で黒字を出すこだわりを持たなければなりません。
「時間が足りない」と言って土日や時間外の努力を拒むか、あと少しの踏ん張りで黒字を出そうと全力を尽くすか――これは働く人間の意識(マインド)の問題です。もちろん、適切な休養は必要であり、限られた時間で成果を出す効率化の工夫も求められます。しかし、根底にこの「個人商店の経営者意識」があるかどうかで、成果も給料も大きく変わってきます。
また、倒産しない会社を作るためには、以下の原則を守らねばなりません。
- 実力主義のリーダーシップ(世襲の否定): リーダーには、その時最も実力がある人間が就くべきです。世襲制にしてしまうと、優秀な社員のモチベーションが低下し、実力者が去っていきます。全員にチャンスがあれば、高い意欲が保たれ、強い組織になります。
- 「ガラス張り」の透明な経営: 数字をすべて開示し、貢献度に応じて公平に分配することです。透明性があれば、たとえ業績不振で一時的に給料が減ったとしても社員は納得でき、「黒字にしよう」と全員で努力することができます。
- トップ自らが範を示す: 「社長たるもの、良き親として社員を見守り、範を示さなければならない」。社長が怠ければ社員も怠けます。社長にやましい行いがあれば即刻辞任して詫びるべきです。私利私欲を捨て、大義に生きる姿を見せることが、社員の教育・成長に直結します。
5. 試練を乗り越え、王道の経営へ

人生や事業には試練がつきものです。天は私たちに幸運(僥倖)を与える一方で、これでもかと苦しい試練も課してきます。不景気や逆境に直面した際、それを「時勢のせいだ」と諦めるのか、「自分を成長させてくれる絶好の好機だ」と捉えて努力するのか――そこに人としての分かれ目があります。
試練から逃げ出さず正面から立ち向かう勇気を持つこと。大義名分をわきまえ、日頃の行動を律し、正々堂々と生きること。そうすれば心は晴れ晴れとし、自然と周囲に人が集まり、楽しく朗らかに生きていくことができます。
日々を生きる上では、まず現在の健康と幸せに感謝し、今日やるべきことを明日に延ばさず全力でやり遂げること。能力不足を感じたら過信を捨て、素直に先輩や上司の教えを請うことが大切です。
経営者と社員が一丸となり、不景気でも業績を落とさない地力をつけること。そうして会社が永続していくことこそが、社員とその家族、そして未来の後輩たちの幸せを守る「永遠のリレー」となります。

ただお金を儲けて会社を大きくするのではなく、高い倫理観と感謝の心を持ち、社会の要請に応えて成長していくこと。真心を尽くし、世のため人のために生きていく「王道の経営」を、私たちは一歩一歩目指していくべきなのです。